鎌倉への旅⑤ 二度目の江ノ島篇 鎌倉ゲストハウスから旅立った。今日も、別の旅人がここに泊まり、夜に何かが起きるのだろう。しかし、もう知る由もない。次の旅がはじまったから。 津山への帰りの夜行バスは、明日に予約してある。だが、今夜の宿をとっていなかった。どうするつもりだったのだろう。稲村ヶ崎の公園に野営すればいいじゃないかと考えていた。いま振り返ると、やすきは不思議なことばかりしている。 やすきはもう一度、江ノ島に向かった。前の晩、鎌倉ゲストハウスで、江島神社のさらに奥に階段があり、島の裏まで行ける、と教えてもらったからだ。 おもいもよらぬ ふたたび、あるいて江ノ島を目指す。途中、長谷にあるカフェ〈Basic〉に立ち寄った。引き寄せられたように。珈琲をたのむ。カウンターにJ DillaやQuasimotoのグッズがあった。 これ、どうしたんですか?と店主さんに尋ねてみる。 店主さんは、むかし、アメリカの西海岸に住んでいた。ヒップホップが好きで、彼らのグッズをつくっている、と答えた。思いもよらぬ出会いだった。 鎌倉でまさかヒップホップと出会うとは。西海岸のヒップホップシーン談義をした。いいレコード屋はないか、とやすきが尋ねると、横浜にはレコード屋かたくさんあると教えてくれた。予定はなかったが、横浜にも行くことにした。 カフェを出て、江ノ島へ。江島神社に再び着くと、境内の奥にさらに階段があった。さらに道を奥に進む。細い道と階段をくりかえす。江ノ島は緑に溢れていた。観光地のほかに、住宅地もあるし、山道もある。リスが木を登る。人生で初めて見たリスだった。西日本では見かけたことがない。 島の裏まで出た。岩場がある。荒い白波が立っている。右手には、藤沢の街。DINARY DELTA FORCEがいる街だ。鎌倉とはまた違う空気感を纏っている。富士山が見えたはずだが、富士山だと認識していなかったかもしれない。 ポケットからイヤホンを取り出し、nujabesを流した。nujabesは晩年を由比ヶ浜で過ごしたと聞く。『Metaphorical Music』を聴いた。18歳のころ、よく聴いたアルバムだ。津山から神戸へ出る直前に買った。ああ、やっと津山を出れる、閉塞したこの状況から。と、春の季節と共に訪れた解放感がよみがえる。吉井川の川べりを歩きながら聴いたものだった。鶴山が見えた。 聴き直すと、この音楽は海のそばでつくられたのだな、と感じることができた。江ノ島で聴くとそれがよくわかった。このアルバムに『Letter From Yokosuka』という曲がある。横須賀出身のアーティスト、Uyama Hirotoさんが客演されていて、今思うと、ここにも兆しがあった。 2時間ほど、そこにいた。特にあてもなく。全てを投げ出して景色と同化していたようだった。頭の中で、常にだれかの目線を気にし、境界線が引かれてなかった。海面から反射する光が、その境が消していくようだった。海は、ただただ受け止めてくれた。 むすびつくこと 鎌倉への旅③ 葉山篇 鎌倉への旅① 〈実間〉オープニングパーティー 鎌倉への旅② 江の島篇 HOME