湘南移住記 第232話 『勇気あるRun』

ゆうきくんがhatis AOからエデン横浜まで走ることになった。

3月、ゆうきくんからメールが届いた。hatis AOからエデン横浜まで走るので、送り出しをしてもらっていいかと。

27キロにも及ぶ道のりを、なぜ走るのか。明確理由を話さなかったが、やすきは、ゆうきくんらしいと思った。

ゆうきくんは福岡から横浜に出てきて、最初の拠点がエデン横浜だった。

やすきがエデン横浜でスパイスカレー講座を開催し、ゆうきくんはそこにきてくれた。やすきが何者か知らずに。

そこから、hatis AOに足繁く通うようになってくれて、ゆうきくんと横須賀との縁が始まった。以来、谷戸会をはじめ、さまざまなイベントに参加するようになった。間借りカレー屋を始めて、多くの人との関わりができた。

エデン横浜とhatis AOも深い縁がある。高橋さんが開拓してくれた航路が、横須賀コーヒーフェスへと結実し、賑やかさの花が、あちこちに咲いている。

ゆうきくんは、エデン横浜とhatis AOの間にできた橋を表現しようとしたのだと思う。橋はさまざまな人が行き交い、多くのドラマが生まれた。橋は今もおおきくなりつづけ、新たな物語を生もうとしている。

エデン横浜がなくなるということは、橋の袂を失うということを意味する。ゆうきくんは、多くの人が行き交った跡を、走ることで、躰で追う。

27キロという、ハーフマラソン以上の距離を往くことは、並大抵のことではない。ゆうきくんを信じてはいるか、心配でもあった。

直前になって、こまつさんとよしさんが並走してくれることが決まった。よしさんは100キロを走った経験もある。2人がいてくれれば無事に走り切れるだろうと、安心した。

前日の夜、ゆうきくんはhatis AOを訪れた。閉店後、上町を通り、横須賀中央まで一緒に歩く。2人きりで話すのは随分とひさしぶりな気がした。たのしかった。ゆうきくんは、またカレーがやりたいと言ってくれた。上町のスパイス屋さんに寄って、ゆうきくんは値上がりしてカルダモンを買っていた。

理由

ラン決行、当日。走るのに絶好な春陽。ゆうきくんは、白地と黄緑のはいったアディダスのジャージとキャップをかぶってランに臨む。

ゆうきくんの送り出しに、きゅうさん、高橋さん、クロフネさんが集まった。前日、こまつさんが体調不良で参加できるかどうかわからないと聞いていたが、予定通りに来てくれた。

出発の様子。きゅうさんによる写真

hatisのランチタイムを終えて、3人のランがスタートきゅうさんと高橋さんとクロフネさんは車に乗り込み、あらかじめ決められた休憩ポイントで給水と励ましを担う。

やすきは、佐野の〈養生スマイル カフェ〉で行われているスミーさんとイーブイちゃんのアストロ英会話に赴いた。スカおじさんやヨッシーなど、谷戸会のメンバーが来ていた。地域の連携ができ始めていることを実感する。

よしさんがXで逐一、どこまで走ったかを画像や動画で報告していたので状況は把握できた。田浦あたりから、ゆうきくんの顔は苦しみに歪み始めた。つらかろうに。27キロを走るという、事の大変さがはじめてそこで伝わってきた。

やすきは佐野町から一度hatisにもどり、エデン横浜に向かった。間に合うかと思ったが、ゆうきくん達のゴール前に着いた。

中では、ひゅごくんの料理が振舞われていて、たくさんの人が、ゆうきくんのゴールを見届けようと集っていた。

きりさんもやすきも、そわそわして待っていた。やすきはジントニックを頼んだ。

15分後、ゆうきくんたちが走ってくるのが、2階のエデン横浜の窓から見えた。あぁ、よかった。無事に走り終え、店内に入ってきた。みんなから、拍手の海で迎えられた。AKIさんの差し入れで、3人はポカリスウェットを飲んだ。さちこさんからリモートでシャンパンが振舞われた。エデン横浜にくるたびにシャンパンを飲んでいる。

やすきはXの画像を見るたびに感動してしまって、すぐにでも駆け出したかった。よくやった、ゆうきくんがやり遂げたことが、うれしかった。

「なんどもやめようかと思った」

とゆうきくんは話したが、このマラソンがチャリティーで、hatisの冷房移設の資金を募っていて、それで諦めなかったらしい。

やすきは二重の嬉しさに打ち震え、多くの人に助けてもらっているのだから、hatisを成功させなければ、と改めて決心を強くした。