麻倉 葉祐 の草の根通信

先週、神戸のボイボイが横須賀まで訪ねてきてくれた。旅の途中だったそうで、三重から鈍行を乗り継いで来てくれた。

ボイボイは音楽の友達だ。ビートメイカーをしている。サンプラーをつかって、ヒップホップのインストメンタルをつくる。私もビートメイカーで、ボイボイは私と似たタイプ。

地元の津山にも遊びに来てくれた。縁が深い友人だ。

そんな彼が、手土産をもってきてくれた。草の根通信と書かれたお茶だった。

いつかの元町

それは、麻倉 葉祐というレゲエ・アーティストがつくったお茶だった。彼も、音楽を通じて出来た友達。私は、はったんと呼んでいる。宣伝にもなるので、ここは麻倉 葉祐としておこう。

麻倉 葉祐は、KARというラッパーを通して神戸で出会った。元町商店街のハーバーランド側に阪神沿線の駅があって(調べても名前がわからない)、駅の地下にギャラリー兼イベントスペースがあった。あらゆる意味でアンダーグラウンドで、怪しさが漂う場所だった。

駅自体がボロボロで、その奥の通路にその箱はあった。廃墟を勝手にジャックしたような趣で、入り口に水槽があった。通路にソファやピアノが置いてある。LEDと蛍光灯でライティングされていた。音を鳴らせる部屋が2つあった。

音楽だけでなく、いろんなジャンルの人が出入りしていた。おもしろい場所だった。

その頃、私はソロで活動していて、KAR君がよくイベントに誘ってくれていた。その箱はなぜか阪神間の若手レゲエアーティストが使っていた。箱代がタダだったからだろうか。

神戸には〈ジャムダン〉というレゲエの老舗クラブがあったが、また別の動きがそこにはあった。

私も一度、イベントをそこで主催したことがある。というか、生まれて初めてイベントを企画した。ゲストは金沢からラッパーのレイト君を招いた。

スタッフさんの人間がよくて、楽しかった。いい雰囲気だった。

余談だが、こういうのって、誰が語り継ぐんだろう。街の小さな歴史というか。あの混沌は、時間と共に流れ去っていくだけなのだろうか。

そこで、麻倉 葉祐と知り合った。イベントが一緒だった。彼はウクレレを弾いてレゲエを歌う、オリジナルなスタイルを持っていた。

私が玄米にハマり始めていた頃で、そのことを話すと、「玄兄」と呼んでくれていた。

その頃の麻倉 葉祐との会話で記憶に残っているのは、「脳がなければもっと円滑にコミュニケーションをとれるのに」と言っていたことだ。ああ、それはそうだし、とても先進的な考えを持った人なんだなと思った。

それから


時が経ち、神戸から津山に戻って、私は〈hatis 360°〉というカフェを開いた。小規模な音楽イベントをよくやっていて、麻倉 葉祐もライブをしに来てくれた。音源をリリースして、各地を周っていたようだった。バンドメンバーも2人いた。

彼は双子座だし、気が合うのだろう。とても優しくて、繊細な部分を持った人だった。

その後、沖縄に移住したり、また尼崎に戻ったり、あちこち移動してるようだった。

私も横須賀に移住したが、音源のリリースの度に連絡をくれていた。私の動向も見てくれているようだった。

このブログでも、インタビューを掲載したりした。かなり反響があった。

ボイボイが来てくれた日は、週7稼働になって疲れがピークを越えそうな時だった。休みをとって横須賀を歩いたが、本当にいいタイミングで来てくれた。

ボイボイと遊んで、1週間ほど経って麻倉 葉祐のお茶を飲んだ。疲れてすぐ寝てしまった翌日の朝。

お茶はさやまかおりという品種の、有機栽培のものだった。お湯を沸かして飲んだ。美味しかった。

美味しいし、強い安堵感があった。心がやわらぐのがわかった。優しい味わい。緑茶には、こんな力があったのかと知った。焙煎を繰り返していて、珈琲ばかり飲んでいた。お茶は、体調を整えるために三年番茶というを飲んでいた。

忙しい日々に、気づかない内に心が硬直しかけていたのだろう。

はったんが、ブレーキをかけてくれた気がした。まあ、ちょっとゆっくりしようよ、というメッセージを、ドンピシャのタイミングで伝えてくれたのだ。音楽の友達は、こういう不思議な力を持っていることが多い。

変わった便りだったが、言葉より、彼の優しさが伝わった。

いつも通りに出勤する。すると、朝日がいつもより爽やかに感じられた。

ここでも何回か書いてるが、私はものごとを感じにくくなっていることが多い。離人症のような症状にも近いが、ちょっと違う。

うまく説明できない。

ところが、はったんのお茶を飲むと、朝が感じられた。それは本当にひさしぶりのことだった。ああ、朝ってこんな清々しいんだよな、という。

ボイボイ、届けに来てくれてありがとう。はったん、素晴らしいお茶をありがとう。友達が助けに来てくれたのだった。

私も、心にスッと通るような、その人の助けになるような珈琲をお出ししよう。

彼の作品と、私が彼といっしょにつくった曲のリンクを貼っておきます。