湘南移住記 第261話『休業』

hatisを休業することにした。

できればこうしたくなかったのだが、メンテナンスがより緊急で、現状では満足にオープンできない。決断せざるを得なかった。

酷暑で離れていた客足は、盆明けには戻ってくると聞いていたが、この暑さは9月も続くらしいので、開けたとしても、厳しいのかもしれない。

まだお客さんが戻ってこないという飲食店の話も聞いた。近所で言うと、〈TOPOFF Donuts〉さんはテレビに出て、かなり調子がいい。オープン前には並びが出来てて、昼にはもう完売している。

テレビでhatisのことを話してくれたそうで、もし開けてたら恩恵を預かっていたかもしれない。

もちろん、気持ちとしては、店を開けていたいし、これ以上、日雇いの派遣やバイトには出たくはない。この1週間は本当に長かった。心が削られていく。自分自身の活気を失っていくことがわかる。こんなに嫌なことを長く我慢していたんだな、改めて理解した。仕事があるだけ、ありがたいのだが。

しかし、これから5年、10年と長く続けていくために、礎をここでしっかり作り直す必要がある。

理想のためのリソース

店を閉めている間のやすきの気持ち

いままでは、「とにかく店を開けたい」という目標で突っ走ってきた。資金面と売上の不足をバイトで補って、イベントでつながりをつくり、という方法を繰り返す。

コミュニティの基盤をつくり、Googleマップのレビューも積み重ったので、人は来るようなった。忙しくはないけど、週6で店を開けれるようになり、本当にギリギリだけどなんとかやっていけるようにはなった。

「自分の好きなことでやっていく」。目標は達成したが、息つく暇もなく、次の目標が現れた「長く続けるにはどうすればいいか」だ。

石の上にも3年、という。3年目は節目だ。お店をやっている人で、軌道に乗っけていたら、次の展開が見えてくる。2店舗目をつくる、など。

乗っていなければ、止める人もいる。3年目になり、閉店する飲食店も横須賀にいくつかあった。

様々な理由があるだろうが、閉店することは、みんなきっと本望ではない。やすきも津山の〈hatis 360°〉を閉めた辛さと悔しさを味わっている。店にも愛着が湧くし、支えてくれたお客さんたちも申し訳がない。

これからつづけていくためにも、hatisは、スタイルを作り直す、という作業。そこに向き合うということは、ステージがひとつ、上がったからだ。

あるとき、相模原から4人組の男性客が来てくれたことがあった。たいそうhatisを喜んでくれた。

やすきは嬉しかったが、内心、こうも思っていた。これ以上があるのに、と。もっとこの人たちを喜ばせることができる。

内装にしてもメニューにしても、やすきの理想から現状はかけ離れていた。その理想は、積み重ねてきたからこそできたもの。

メニューは、この売上ならこの原価に収めないと利益が出ない、という制約があった。制限がある、いわば間に合わせでよくもまあやってこれたものだが、それも限界がきた。

雨漏りの修理、床もボロボロになっているし、火口も変えなければならない。先送りしていたツケが今になってのしかかってくる。

同じ古民家を改修した〈問室〉や東逗子の〈cas!ca〉はお金と時間をかけて高いクオリティを保っている。

同じ3年にしろ、積み重ねの質に違いがあるように感じた。本質に向き合ってきたかどうか。どうお客さんを呼ぶかどうかではなく、自分が何をやるか。対外的なことではなく、内面を突き詰めないと壁にぶち当たる。もっと言うと、人の目を気にせず、自分の本心に従えていたかどうか。

横須賀で根を張るためにも、この先の東京進出のためにも、足場を固めておく必要がある。

予定では、休業は1ヶ月から2ヶ月の見込み。10月半ばから11月半ばまで東京での仕事の話をもらった。かなり高収入なので、資金をもう一貯めできれば、その資金で会社を立ち上げるまでやるかも。店をそこまで休んでいいかと言う天秤にかけている。