湘南移住記 第205話『庭にハンモックを』

土曜日。秋の気配が深まりつつある。落葉と共に、蝉の死骸が入り口に転がっていた。蝉の魂は、秋の空に昇っていくのだろうか。

朝一、インドネシアの生豆を焙煎。先週よりも時間をかけてじっくり焼いた。コンロの調子が悪く、時間がさらにかかるようになる。いつもより多めに焼く。

焙煎前に、お茶碗一杯分の欠点豆をより分けた。作業をしながら、ピアノのソロ曲をひたすら聴く。

綺麗にしてもらった玄関に、スミレの種を植えた。玄関は日が当たらないのだが、スミレは日陰でも咲くらしい。

掃除をしてもらってわかったが、この庭はよくできている。手入れをすると美しくなるだろう。

雲行きが怪しいので明日の天気を調べると、台風がきているようだった。これはまずい。

店舗の一部に補修しなければいけない箇所がある。雨が降ると営業できない。数人の予約を頂いていたが、キャンセルさせてもらった。申し訳ありません。

手を取り合って


予約頂いていた1人が〈No.13〉の野口さんだったので、直接謝りに行った。途中、〈のぼり雲〉に寄る。

例によってサウナ。先週の営業終わりに寄った時はサウナが満員で入れなかった。今日は混み具合がそこそこで、入ることができた。この時間帯は老齢の方々が多い。

サウナに入る。目の前に60代らしきおじいちゃんがいた。熱風機のすぐそばに座っている。サウナに入って疲れを取るということは、この人も現役で働いているのだろうか。

サウナから出て、露天風呂を見渡すと、また別の老齢の方々が大の字で寝ている。みんな働いて、サウナに行かなければならないくらい、疲労が蓄積しているのだ。

私もお邪魔して大の字になった。目を瞑る。血の循環が始まる。頭が回り出した。

秋の空。ソフトクリームを薄く引き伸ばしたような雲が流れていた。

疲れた体に想う。

くたびれるまでやるのは間違ってるよ、と言われたことがある。

やり方がまちがってるんだろうか?


野口さんは休みなしで働いている。Vtuberの知り合いができたが、まさに命を削って働いている。

やりすぎると、また春のように病気になってしまうだろう。自分が壊れるとすべてがストップしてしまう。

その一方。

改装にもう少し手をかけたい。

設備投資もしたい。

体力と気力と時間とお金を天秤にかけて、どの選択がベストだろうか。

と考えたときに、金融国庫に融資を頼むのがいいのではないか。平たく言うと、お金を借りたら話が早く進む。

クラウドファンディグもやろうと考えていた。達成できるかどうかはわからないが、少なくとも店の宣伝にはなる。

焦りからくる判断かもしれないが、ここまでお金を借りずにやってきて、アリなような気がしてきた。

津山店のように、持ち家でやるのとは1000倍くらい大変さが違う。あと今回の物件は広い。庭を含めると、相当手がかかる。

で、人に仕事を依頼するようになった。草刈りにしろ片付けにしろ、本当に助かる。

ここまでほとんど独りでやってきて、真に人のありがたさがわかるようになった。

いまも、西上さんの奥さんが店の看板をつくってくれている。今日、あまっている塗料はないかと連絡があった。

仕事をだれかに振れるようになれば、自分が持っている時間に対して高い効果を得ることができる。

ひとりより、みんなでやったほうが大きいことができる、ということ。


〈No.13〉に到着。アイス珈琲を頼んだ。果実味がしっかり出ていて、美味しい。最近また美味しさに磨きがかかっている。

自分がまた珈琲を出す段階に来て、改めて差を認識した。

ウーバーイーツ

マツダくんと検討していたウーバーイーツの話をした。40%ほど取られるが、その分価格を乗せればいいだけで、利益的にはかなりいいということだった。

ウーバーイーツで、注文を取りに来た。野口さんはテイクアウト用のカップにサランラップを巻く工夫をしていた。ウーバーイーツで働いていたマツダくんも、液体は溢れやすいから困っていたと話していた。なにかしらの工夫が必要だろう。

佐野町から横須賀中央駅まで行き、予約してくれた方に謝りに行った。

そこからさらにホームズへ。補修用の防水シートを買い求めたが、なかった。

山科台に、〈フジショップ〉という資材屋さんがある、と教えてもらったことがある。だが場所が、衣笠駅よりさらに南で、距離もある。うーん、Amazonが早いか。

リビング横須賀で三浦産野菜など食材を購入。じゃがいも、おくら、丸茄子。三浦の野菜は美味しい。店でそれを伝えられたら。

たらこマヨネーズ、というケミカル系食品を買った。じゃがいも、おくら、アボガド、レバーと混ぜてたらこポテマヨサラダをつくったが、あまりたらこの味がしなかった。

たらこマヨは中山家の食卓に並ぶことはなかった。自分が稼いだお金で好きなモノを食べれるようになった、ということを改めて認識した。

理想が明確に

準備していたのだが、明日出す予定のカレーはネパール山椒と花椒のチキンキーマ。手に入れたネパール山椒がとても香りがいい。花椒で麻辣(シビレとヒリヒリ)をつけるとさらにリズムよく食べれるのではないか。

花椒は、大阪は中津の名店、〈soma〉の「豆腐と花椒のカレー」というメニューから連想したもの。私はsomaでラムキーマしか食べたことがないが、この字面を見た時、発想の斬新さに驚いた。

さらに、うずら卵いりのサモサ(インドの春巻)に和山椒を入れ、香りのレイヤーをつければ、さらによくなる。

キーマのあいがけを決めかねていたが、ラッサムに近い、酸味のあるカレーがいいのではないかと昨日あたりから思いついていた。キーマには、炒めたピーナッツをあわせる。薄く切った唐辛子をのせてもいい。

木曜日、京急ホテルのカレーを食べた。意外と上手くて、勉強になった。マイルドな味付け。

それの対極に近いようなカレー。店で出す、となると理想のイメージがものすごい具現化されてくる。ここは本当に楽しい。

すみません、明日はお休みさせて頂きます。ホームページを詰めたり、など、できる作業と、快復に。

客間で、甘酒を啜りながら、店の完成図を夢想する。

Bluetoothの真空管アンプと、PioneerのCS-06というジャンベみたいな無指向性スピーカーをつないで、Deezer Hifiにしたら音はもっとよくなる。

机もやり直したいし、こちらに別の机をつけて、黒くていい感じにくすんだアンティークの照明を置く。アートの写真集や、パッと読める文庫とか、本も置いて、庭にバラを植えて、玄関も直して、ウッドデッキをつくって、ハンモックもいいなあ。珈琲も、1キロの自動焙煎前を導入して….。

まずは、補修か。

一年後、ここはもっとよくなっている。

マツダくんもそう言ってくれた。

できることから、ひとつずつ。