今回の決断は急に決まったことではなかった。店を一回止めようか、という気持ちは6、7月からすこしずつ芽生えていた。
このまま、週6でやり続けることはできるけど、内装もメニューもやりたいことがすべて出来ているわけではない。資金繰りの問題から、新しいことを試すにも制約がある。
アペロールソーダやスパイスカレーの肉増しなど、新メニューをいくつか試みたけど、すぐに注文が入るというわけではなかった。お酒は在庫を持てるけど、食べ物はロスが出てしまう。ロスは直接マイナスになってしまうので、なかなか定着しづらかった。メニューを出さなくなったあとに、インスタの発信を見て注文が入ることもあった。
そうなると同じことの繰り返しになってしまう。この原価で、常連さんもご新規さんも喜んでくれて、という手癖。しかし、料理の幅は広がらないし、成長はままならない。
やすきはアイデアを思いつく人間だから、次々に新しい商品をつくりだすサイクルをつくったほうがいい。
発酵バターチキン

固定の発酵バターチキンは、方向転換に迫られた。スパイスの配合の詰めが甘かったし、作ってるうちにレシピをシンプルにしたくなった。
発酵バターチキンの原型は、去年の6月に試している。シンプルで明るい味で、常連さんからも概ね好評だった。
今の発酵バターチキンはインドの伝統的なチキンカレーの作り方をほぼ踏襲したもの。歴史から学ぶことは多く、このレシピのおかげで作る時間とスパイスの量が半分ちかくにまで減った。
実際にインドで食べたことはないので、海外のレシピを参考に、作り続けた。空手の正拳突きのように、レシピを体に覚え込ます。これならいける、と踏むまでに1ヶ月はかかったろうか。感覚を掴むまでは苦しい作業の連続だった。生まれて初めてカレーをつくるのが嫌になった。
大枠は完成したものの、スパイスの配合を詰めきれなかった。材料の比率も、いわば、細部。完成度はもうひとつ上があるだろう。
目指していたのは、開店の二時間で売り切れてしまう相模原にあるカレー屋さん。遠くからでも、何回でも、これを食べにくる、というカレー。
スパイスは勉強と研究の余地がある、と言う課題が見えた。歴史から基礎を学ぶ時間は、地力を確実に増やしてくれる。
hatisの発酵バターチキンは、伝統的なレシピの中に、数種の出汁、生クリーム、ピーナッツバター、レーズンを加えるなど、自分が培ってきた方法論を入れ込んだ。
だが、今振り返ると、捻りすぎていたかもしれない。去年の発酵バターチキンは我流だったが、わかりやすかった。
くわえて、こどもへの対応。天空のマルシェもそうだが、こどものお客さんがきたときにカレーを用意しておきたい。
津山で〈hatis 360°〉をしていたとき。やすきの初期のスパイスカレーは、もっと優しいカレーで、小さいこどもも喜んで食べてくれていた。それが嬉しくてね。具体的に言うと、牛乳をもっとつかったレシピで、作り方はいまよりもっと簡単。
だから、〈hatis 360°〉の最初期は、家族連れのお客さんが多かった。家族連れでくる常連さんも数組いたし。
〈hatis AO〉の客層は比較的高い。40代以上の2人組が新規のメイン。この何ヶ月かで、若い人は増えていた。
イベントや紹介を気に、発達障害をもつ子どもたちと関わる人との縁ができてきた。やすきも、そういった活動も入れていっていい。教育に興味があるし、長く続けていく上で、より地域に根付いていくこともいる。
発酵バターチキンを優しくして、こどもたちも安心して食べれるようにする。軸がある上でなら、他で尖ったメニューを試せれる。それを楽しんでほしい。