湘南移住記 第260話 『更地』

夏季は縮小営業をすることにした。

6月後半。薮木さんの展示がはじまったあたりから集客に翳りが見え始めた。通年、6月は売り上げが落ちるのだが、梅雨がなかった代わりに、早すぎる夏の到来が、集客を奪っていった。

hatisだけではなく、三浦半島全体の飲食店が厳しい状況らしい。三崎の喫茶店さんが店を訪ねてくれたが、三崎も人出が少ない、ということを聞いた。

6、7月は薮木さんと赤江さんの展示に助けられた。展示によって、多くの人が来てくれた。本当にありがたかった。

アルバイト生活がふたたびはじまった。ひさしぶりに横須賀を出て、いろんなところへ出かけた。まるで旅をするように生きてきたものだ、と思い返した。まだまだ見知らぬ風景が多い、ということも実感する。

葉山の森戸海岸
横浜市戸塚、田戸町

ただ、こういうことも、もう終わりだ。hatisをベースに動く必要もない。この5ヶ月、ほぼほぼ横須賀にいて、仕事で外に出て、戻ってきた時の安堵感は強まっていた。あまり出たくなくなってきた。

仕事があることはありがたいのだが、同じ利益をあげるにしろ、アルバイトは店の4倍はつかれる。

ヤマが動く

この1ヶ月、自分がどうすべきか、どうしたいのか。熟考した。

まず、優先課題。

店舗の修繕の必要が出てきた。屋根、水道管の修理。火の元関係もできれば替えたい。開店して3年目ともなると、メンテナンスの必要がでてくる。

3日連続できてくれたお客さんに、「建物が泣いている」と言われた。

店のオープンを無理に優先しすぎて、やるべきことを後回しにしてきた。そのツケがきたのだろう。

くわえて、やすきの身体にも異変が起こる。まず、左膝。1ヶ月前から痛み出した。寝ていると、中から鈍く痛む。めいさんに鍼を打ってもらったが、病院には行ったほうがいいよ、と言われた。お金がもったいないな、と我慢していたが、店の営業中にも痛くなってきたので、観念して行くことにした。

久郷の病院へ行く。盆でも開いていた。治療費は覚悟していたが、レントゲンを撮って注射を打って2100円程度。安い。しかも治った。

もうひとつ。毎日、甘いものを食べて、虫歯が4本もできてしまっていた。こちらも観念して、上町に新しくできた〈エデン歯科〉に通っている。6000円もする日もあるが、仕方がない。

店の修繕。なんと、下水管の詰まりは自分で施していたら直った。これは嬉しかった。パイプに鋼の管のようなものを通していると、水が通った。これで五万円は浮いただろう。

屋根の雨漏り。近所の家で職人さんが作業をやっているのを見て、メカニズムを理解した。ツテで職人さんに頼んでいるが、もう一度自分でやることにした。

母屋に下地を張って、波板を買い替えた。一枚1800円。2箇所の雨漏りがあるので、3枚分を買う。

もし、今回の修理で雨漏りが凌げたら、話がかなり進展する。雨漏りはさすがに5〜10万円はかかるだろうから。

改装費も、30万円はかかるだろうと見積もっていたものの、最低限で考えると3万円くらいで済むのではないだろうか。漆喰は3500円を2袋で、玄関、縁側の壁。白いバールームはスペイン漆喰。1袋7500円。畳ルームは青い珪藻土で高くつくが、漆喰に顔料を混ぜたら安くつく。

庭にウッドデッキ製作は後回しにして、4人席のテーブルも古材もらったから、あと切るだけ。こないだ、学校の片付けでいい感じのテーブルの脚がいくつも廃棄になっていたからもらっておけばよかった。

避けていたことに向き合い始めると、ヤマが動いてきた。想定していたより簡単に終わることもある。

店を、更地からもう一度作り直すつもりでやってみよう。メニュー構成も含め。1段階上にいくために、いままでのhatisのスタイルを変えていく。