時代や季節を越え、生活のかたわらに佇む一曲を紹介する、いつものホットナンバー。vol.1

SPARTAは、熊本出身のラッパー。東京に上京し、スケーターとしての活動を始めた。スポンサーがつき、外国のSNSやメディアに注目されていたが、19歳のときに怪我をし、スケーターから身を引く。

東京の撮影会社に入社し、ビデオ・ディレクターとして活動を始める。SPARTAは、ディレクターとしての名義だという。

ラップを始めてからのSPARTAは、STUTS、Kid Fresino、JJJと共鳴していて、名古屋のNEIと共に2020年ごろから名前を出し始めた。その頃はあまり気にしていなかったが、『Count Your Blessings』というタイトルは心に引っかかっていた。

英〈Ninja Tune〉のHintというアーティストがとても好きで、彼の曲に同名のものがあったからだ。あなたの呼吸を数える、とても詩的な表現で、日本人がカタコトの英語で思いつけないようなタイトルに、心を奪われたのかもしれない。

SPARTAと距離が近くなるきっかけになったのは、2023年にリリースされた『Only You』という曲だった。

あなただけには

その頃は、店をやりながらも派遣で働いている頃で、とても苦しかった時期だった。理想は叶えたのだけれど、生活の実際があり、お金、時間に追われる日々。

と、YouTubeにこの曲が流れてきた。ドラムに鳴り物を使っていて、いいビートだなと最初に感じた。聴いていくうちに、フックのメロディがとてもよくて、何度も何度も聴くようになった。

サブスクを利用するようになってから、同じ曲を繰り返し聴くことはなくなっていた。膨大な情報量の前に、しらずしらずうすっぺらい消費をしていたのかもしれない。

なぜ、この曲が心に留まったのだろう。それは、彼が家族の暮らしを歌っていたからだろう。熊本だろうか、寒い冬の光景をバックに、歌い、歩み進めていく。

家族の暖かさだけではない、現実も描写している。かつて、ヒップホップはリアルであることが大事だとされていた。

SPARTAと共作したKid FresinoとJJJの仲間であったFEBBも、ヒップホップは特別な人たちのためじゃなく、毎日を生きる人たちのための音楽であると発言していた。その言葉を思い出した。冬と同じく、厳しい現実が目の前にある。

新曲『歩こう』も同じ内容で、SPARTAが、1日1日、少しずつでも歩んでいるということがわかる曲。

稼ぎはふえた / でも自由は消えた / 手を繋ぎ向かう公園へ / 同じ生活も受け入れて

奥さんと子供を育てながら、働き、お金を作る。生活は豊かになったけれど、時間はなくなる。だけど、音楽は作り続けている。

夢というより、暮らしの傍らに音楽があって、必要なんだろうな、と胸に滲むような一曲。Only Youと歌ったあなたとは、家族だったのか、音楽だったのか。