5月の終わり頃からひたすらに、漆の下地仕事と螺鈿(※1)を反復横跳びのように繰り返している。具体的にはひたすら薄貝を切って貼ってと、ご依頼品の下地をしつつ新作や即売用の下地をこなす。私の仕事の8割以上は表に出ない作業の蓄積を経て完成するので、当然というかいつも通りではあるものの、今回はその数が多い。
それは一つは新作を作るから。
そしてもう一つの理由は今までの「annon」というブランド名は金継ぎの仕事用にして、新屋号の方をジュエリー専門として区別することにしたから。いわゆる”リブランディング”というべきだろうか。そこでかねてより作りたかったモチーフを完成させるために必要なパーツの数を数えてみたら全部で600個だった。ただし、1回塗って完成するわけではなく、1パーツ最低5回は塗りたいので計算したら、単純計算で全部で3000回。今までこなしたことのない途方もない数字に自分で自分にドン引きした。
とはいえ、やると決めたらやるしかないし、自分の決めた人生を誰かが変わって引き受けてくれることはあり得ない。そもそも人生の舵取りを他人に任せるようなことは二度としたくないしさせないと固く誓っている。というわけで冒頭の反復横跳びに至る。
※1 らでん。ざっくり言うと漆で貝を貼って装飾する技法を指す。日本では奈良時代に唐から持ち込まれた。
ここからが本番
とはいえ、毎日毎日同じことを繰り返すと流石に飽きる日もあるし嫌気も差す。『誰だ、こんな面倒臭いこと考えたのは?』『私だよ!!!』と自分にツッコミながら作業に打ち込んでいた。じゃないとやってられないときがある。自己叱咤激励。時折やらかして三歩下がるときもあり嫌気もピークに達したときにふとある結論が出た。下記はそのときのツイート。
『楽しいことは楽も含む。飽きて嫌気が差すくらい付き合ってからが本番なのでは』そう思った。上達したけりゃ数こなすの一択なのだと分かっているのだし、飽きてイライラして嫌になっても『それでもやってやる』に至った今が本当の意味での始まりな気がした。

漆芸の道に足を踏み入れてから18年経っていた。今年私は巳年の年女なので『人生の半分が漆になっていた』ということに今日初めて気付いた。初めて漆に出会ったときから『死ぬまで一緒にいる気がする』と思っていたけれど、それはもしかしたら現実になるかもしれない。元より骨を埋める覚悟はしているので、それが叶うなら本望。