湘南移住記 第255話 『東京I』

巷を騒がせているやすきの東京進出について。幾度か説明を求められたので、いま考えていること、感じていることを書きます。

hatis AOを一本化し、「やりたいことで食べていく」という目標は達成した。

これ以上はマジで勘弁して笑、と言いたくなるくらい、長い長い闘いだった。3ヶ月しか経っていないし、まだまだ予断を許さない状況ではあるだが。

今朝、厨房でふと考えた。6月だというのに、肌寒い空気が流れている。窓の外から白い紫陽花が、室内に入らせてくれと言わんばかりに咲いている。

いままで、運良くやってこれただけだった。見ず知らずの土地に1人で飛び込み、ここまで築き上げられたのはみんなのおかげである。横須賀の内外問わず、力強い支援があるからこそ、hatisは成り立ってる。

とはいえ、いまのところhatisは風が吹けば吹き飛ぶような店だ。事情が生まれれば、また中断しなければいけない。例えば、やすきの体調不良。去年の夏は、諦めてしまおうか、というタイミングが明確にあった。店もメンテナンスしなければいけない。

先日。通っていたラーメン屋が閉店していたことに気づいた。店に専念して以来、営業時間がかぶるようになり、足を運べなくなっていた。その店の前を通りかかったとき、暖簾がもうなくなっていていささかショックだった。

そのラーメン屋の店主さんは、他の街から横須賀で商売を始められた。hatisより後に開店して、しっかりした形でやられていた。ラーメンも美味かった。

閉店しまえば、そこでおわり。時と共に次第に風化していって、やすきのことも街はいつか忘れてしまうんだろうか。

やすきはヨソモノで、hatisがそういうことになると、横須賀にいれるとも限られない。いま、みんなと関われているのは、単に運がいいだけだ。

残り時間

だからこそ、関わりを大切にしなければいけない。そのために、関われない人とは、無理につきあわなくてもいい。あちこちに首を突っ込むのはやめよう。

横須賀で家を手に入れたり、結婚すると、また変わってくるのだろうか。

どちらにしろ、横須賀での一分一秒を大切にしよう。富士見町の緑、小鳥の囀り、木々の葉が風にふるえる様子、午後の静かな光、近所にあるおばあちゃんの個人商店で売っている、切り干し大根の味。中央の夜の喧騒。hatisの縁側で寝っ転がって、読書をする時間。かつて住んだ神戸のように、何気なく過ごしていた日常が、大切な記憶になっていく。

人生も、もう折り返しが来て、残り時間が刻々と迫っている。一日一日を大切に、たのしんでいこう。そう考えるようになった。

横須賀で0から始めて、社会に礎を築き、みんなと関わり合いを持てたことは、人生の中で大きな経験と自信になった。誇りに思います。ありがとうございます。周りに恵まれている。

hatisはもう、やすきだけの店ではなくなったし、これからはやすきがいなくても回せる状況をつくっていかなければいけない。礎を盤石にすれば、ここからなにかが生まれ続けていく。

だから、次の動きを始めている。

もともと、多拠点生活が夢だった。まさか横須賀と東京とは思いもしなかったが、遠い夢が目の前にぽつっと現れた。

自分の会社をする上で、地元の津山や、横須賀、縁のある土地のものを売る。東京圏に来て確信したが、これからは地方と個の時代。農の時代とも言えるだろう。

過渡期ともいえる現状から、時代のすこし先を見て、自分になにができるか。やすきの新しい挑戦がはじまる。