SEEDA / 『親子星』

YZERR、Tiji Jojo、MonyHorseと、2025年に入ってからビッグリリースが続いている。ライブ方面では、Red Eyeに続き、OZ worldが単独での武道館公演を決定した。日本のヒップホップは、社会において居場所を拡張し続けている。そんな中、SEEDAの新しいアルバム『親子星』がリリースされた。およそ13年ぶり、通算11作目だという。

お前がランドセルを背負ってた時、シーンを背負ってた

SEEDAは、2000年代を駆け抜け、日本のヒップホップシーンを背負って立つ存在だった。今と違い、日本のヒップホップがアンダーグラウンドを美学とする時代。ソロ、SCARSでの活動、DJ Issoとの『Concrete Green』シリーズの発売、m-flowのVerbalをはじめとするTeriyaki BoysへのDis、Guinnessとのビーフなど、話題に事欠かず、刺激を与え続けていた。当時は、サブスクが普及する前。mp3という楽曲のデータをダウンロードしていてMoNDoH, HAM-R, SHIZOO, OKI, NORIKIYO & BESと当時の一線級のラッパーたちのマイクリレー「GOD BLESS YOU KID」を24時間限定でダウンロード配信するなど、インターネットのミックステープ文化など、アメリカの最新の動向をトレースしていて、とにかく動きが早かった。

ストリートで生活をしているにも関わらず、ブログを駆使してメッセージを発表しているのも新しかった。Youtubeを活用したメディア「ニートTokyo」もそうだけど、インターネットで情報を広げる術に長けているのかもしれない。

Bach Logicという、日本のヒップホップのレベルを引き上げたプロデューサーとの共作は、時代に残るものとなった。『花と雨』はのちに笠松将主演で映画化されることになるサイバーエージェントの藤田晋社長が出資したという。収録曲「花と雨」は亡くなった姉への追悼歌で、今でもPop Yoursなど、大型のフェスでパフォーマンスされている。

EMIからメジャーデビューすると、ドイツのCradaなど、海外のプロデューサーを起用し、さらなるレベルへ駆け上がった。しかし、『23 edge』を発表した後、リリースからは遠のくことになる。この頃、新しくアパレルのブランドを立ち上げようとしていた気がする。『BREATHE』あたりから、収入のために音源を制作し始めた。クリエイティブに集中できにくくなっていた、と語っている。

人気が落ち、自分の周りから誰もいなくなった。シーンに再び影響を及ぼすようになったのはAmebaのオーディション番組『ラップスタア誕生』からである。MAGUMA MC`sのRYUZOがバトルばかり目立つ状況を憂い始めたこの番組は、¥ellow Bucks、Tohji、eyden、 CYBER RUIなど、押しも押されぬ人気と、実力を金揃えたラッパーたちを輩出した。

SEEDAはこの番組で審査員を務め、数多くの若いラッパーたちと向き合ってきた。持ち前の先見の明を活かし、才能はあっても、まだ世に名前が出ていないアーティストに客演し、力を貸してきた。「売れるまでは寄り添い、売れたら離れる」というスタンスが、ヒップホップへの愛そのものでもある。名が出るまで時間がかかった自分と重ねて、協力を惜しまないのだろうか。やさしい。ブーンバップに囚われず、常にUSの新しいスタイルを取り入れてきた姿勢も、若いアーティストから尊敬される由縁でもある。

13年ぶり、11枚目のアルバム『親子星』のリリース。Nitro Microphone UndergroundのSuikenも、14年ぶりだった。厳密に言えば、客演やシングルもリリースしていたので、全くと言っていいほど遠ざかってはいなかった。同じSCARSのBESは寡作に音源をリリースし続けているし、NYに移住したA-Thungもそうだろう。

年月

13年の間、たくさんのことが起こった。SCARSのメンバーであったSTICKYは逝去。SEEDAはEMI MARIAと結婚し、子供も生まれた。そのことが、今回のアルバムに大きな影響を与えている。アルバムタイトルにもなった『親子星』は、自身の息子からの会話から生まれたという。素敵。

ああ、なんていい歌なんだろう。SEEDAの人生の坂の登り下りを、正直に綴っていている。1バース目ではできた子供を早く連れて帰りたいと奥さんとフレンチを食べながら語っているが、2バース目では状況が変わり、消費者金融からお金を借りていた、とラップしている。職安に行っても仕事にありつけず、ニートをしていた。父としての心境を歌ったBESの『On A Sunday』からパンチラインをサンプリングを散りばめ、辛い時期のことを書いている。なんて正直な人なんだろう。自分がこの世から去ったとしても、息子を想うフックのメロディーが、寂しさと愛が溢れ出る。

驚かされたのは、Teriyaki Beefを起こしたVerbalとの和解。NujabesとShing02のクラシック『Luv(Sic) pt.2』と同ネタのIvan Linsを使った『L.P.D.N』は、まるでマッシュアップのような一曲だった。この曲名は、『F.I.L.O』や、ハイドアウト関連の楽曲でよくあったアルファベット四文字の略称から取っているのだろうか。何の略なんだろう。日本でヒップホップを聴き続けていてよかった、と思えるような。ILL BOSSTINOとYOU THE ROCK☆、Mummy-D、KREVAとMACCHOなど、積年のビーフが時を経て解決に向かうとき、信じられないような安堵感に包まれる。ああ、ここまでの諍いは、この時のための伏線だったのかと。

この曲が生まれた背景も、子供たちに、争い事はよくない、最後は対話で終わろうという姿勢を見せたかった、つまり、解決に、時間が必要だったとも言えるだろう。

ラップスタア誕生で結果を出したd3adstockをプロデューサーに起用しているのも注目の要素の一つ。こういう姿勢も、『Concrete Green』から変わらない。自分だけでなく、気に入った人もフックアップしていく様が。イケてるイケてないだけじゃなく、人としての有様がかっこいい。目がキラキラしていて、純粋に生きているんだ、この人は、と感じさせてくれる。正直と素直が幸せの才能とも歌っていた。

全盛期を過ぎたとしても、今のSEEDAが一番カッコいい。ヒップホップが20代だけではなく、成熟した音楽に変貌を遂げつつある。40代でないと言えないこと。やすきが一番好きなのは、『Daydreaming pt.2』。この曲の慟哭に、心を突き動かされた。

このアルバムが、たくさんの人に聴かれますように。

二人見上げた 桃色の空
スプーンで食べてよほら
一つ願いが伝わるなら
幸せになって欲しいんだ
Find a star in the night
ダチに 裏切られても
君が母ちゃんに 怒られても
俺が先に 旅だっても
君が幸せなら