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−〈陸前高田市立博物館〉の学芸員・Kさんと、被災資料の修復に携わった全国の方々への敬意を表して。
命をつなぐ
今までの私は「作品は作者の死後も生き続ける」のは当然だと思っていた。特に私が扱う「漆」という素材は特異な堅牢さがあり、その性質上保存状況が良ければ数百年、数千年、最も古いもので約一万年前の縄文時代の出土品が現存している事実がある。
だけど被災作品を目の当たりにし、修復過程の解説を読んで初めて、あくまで自分の考えは『条件が良い』前提の話であり、実際は持ち主や関わる人が大切に手入れをし次の世代に継承することで、初めて成し得ることができると気付かされた。また、自然災害で被災するのは人だけではなく芸術作品にもいえるという視点が欠落していたことを強く恥じた。

展示されている被災資料の修復において障壁となったのは『津波による塩害』だったそう。脳裏に「塩分の付いたものは腐食しやすいだろうな…」という考えがよぎった。
修復に当たり、作品を別の場所へ移動させたくても安全面からすぐには出来ず、その間に夏になり湿気によって作品にカビが生えてしまったり。そもそも津波の被害を受けた作品の修復例は国際的にもなく、方法も未確立で困難を極めたことだとか…。
それをどうしたら克服できるのか。素人考えだと、塩分を抜く手段として真っ先に思い浮かぶのは「真水に漬ける、流す」だけど、油彩画はまだしも水彩画にそれは厳しい。絵の具が水に溶けて絵が消えてしまうはず。想像しただけで強い緊張感が走った。
展示では塩害を取り除くために行った研究とその解説もあった。試作を何度も繰り返しながら方法を探り、油彩画は剥がれかかった絵の具を熱したコテで再び固定し、水彩画には保水性のあるフィルム(蒟蒻のようにぷるぷるして見えた)を絵画の上に短時間乗せて、少しずつ慎重に注意深く観察しながらその作業を何度も繰り返して塩分を抜いたそう。
そしてカビを全て除去しようとするとオリジナルの絵を傷める可能性が高い場合には、一定量除去した段階でこれ以上カビが広がらないようの防腐処理を行なったことなども記載されていた。
〈岩手県立美術館〉で預かっていた作品は今回全てが元々の収蔵先である〈陸前高田市立博物館〉に帰る段取りがついたけれど、それでもまだ被災作品は存在し、今も修復作業は続いている。
ちなみにこの度、陸前高田市立博物館の復興への取り組みが、文化庁に功績として認められ「文化庁長官表彰」を受賞なさっています。下記Xのポストとその前後をご覧いただく方がより伝わると思い、ご本人に許可をいただいてポストを掲載させていただきます。受賞に至る経緯や、普段の博物館の様子もポストなさっています。
今回の受賞理由に学芸員Kさんの言葉『文化財の再生は街のアイデンティティーを復元する営み』が載っているのですが、その言葉に私はとても共感した。一度失われかけた文化を再生・再興するには、多くの人の協力や時間が必要不可欠。時にそれは途方もなく、終わりの見えない不安に襲われそうになる。
昨年元日の能登半島震災で、かつて住んでいた輪島の街が炎に飲まれ焼失したのをテレビ越しに目の当たりにし、その後輪島在住の先輩や、ボランティアに関わっている同級生の話を直接聞く度に『私にできることが何なのか』と悩んだ。現時点の結論は『輪島で学んだ漆芸技術を絶やさないこと、その技術を使って能登へ還元すること』に着地したものの、それでもまだできることがあるはずと考える日は続く。
だから展示を見て心を強く揺さぶられたし、とても他人事とは思えなかった。そして今も尽力していらっしゃる方々に敬意を表したくてこの記事を書いている。どんなことでも、微力だとしても続けることでいつか”バタフライエフェクト”になると信じて行動することが大事だと思う。何もしなければ現実は変わらないし、成し遂げたいことがあるならば行動あるのみだと教えていただいたような気持ち。
旅の終わりと始まり
今回の旅は、亡き祖母の足跡を辿るためのものだった。奥州藤原氏と義経といった権力者が亡くなっても市井の人々の生活は続くし、時間は止まってくれない。でもそれは視点を変えれば「それこそが生きる」ということに他ならず、最終日には命(作品)を救いつなぐ人たちの存在に辿り着いた。そうやって人は生きていくのだろう。
『この先を生きる子供たちに素敵なプレゼントを遺せる大人になるんだ』
それがこの旅の終着点であり、私の新たな出発点です。
おまけ-POKÉMON with YOU トレイン-

一ノ関駅〜陸前高田市立博物館へのアクセスは、JR大船渡線で気仙沼駅に行くのですが、完全予約制の「POKÉMON with YOU トレイン」という列車があります。
”震災で被災した東北のこどもたちに笑顔を届け、また全国のこどもたちに東北の旅を楽しんでほしい”との思いから1日1往復運行しています。私も母親になったからか、大人からこどもへの真っ当な優しさに触れると泣いてしまう…。
次に岩手へ行くときは息子と一緒にポケモントレインに乗って旅に出よう。喜んでくれると良いな。