【Sequence】セルフライナーノーツ

皆さん、こんにちは。ミカです。
前々回の記事で書いた能登半島応援プロジェクト「とどけるきもち展Ⅱ」もこの記事が公開された時点で残すところあと3日になりました。展示は10/13(日)まで川越の〈三番町ギャラリー〉にて開催しております。
できるだけ多くの方にご覧いただきたい内容なので、ぜひご来場をお待ちしております。

展示詳細は上記リンクからもご確認いただけます。

3月に開催した際は震災からまだ2ヶ月という日の浅さと、メディアの取材効果もあり、かなり多くの方にご来場いただきましたが、その時と比較すると正直能登に縁がない人の記憶から風化しつつあるように感じます。
それでも実際にご足労いただいたお客様、情報の拡散を快く手伝ってくれた友人知人の皆さまに、この場を借りて心から厚く御礼を申し上げます。

さて、今回は「とどけるきもち展Ⅱ」のために作った例の新作【Sequence】(シークエンス)についてのセルフライナーノーツです。

【Sequence】:①《反復進行》

【Sequence】とは、音楽用語では《反復進行》の意で「同じ音のまとまりを何度も繰り返すこと」を指す。
DTMやる人や音楽好きな人はよく聞く単語だと思う。

28年前の1996年、長姉がお金を貯めて当時のエレクトーンの最新機種「EL-900」を買った。
私はそのとき小学一年生。エレクトーンを習い始めたばかりで、姉が買ったエレクトーンのデジタル感とピカピカの説明書にワクワクしたのを今も思い出す。そしてEL-900の機能としてシークエンスが搭載されているのを説明書を読んで知った。

要は好きなリズムを自分で作って繰り返させることができた。小節の中のどこでバスドラやハイハットやスネアetc…を鳴らすかを自由にアレンジして電源さえあれば一生繰り返させることも可能だった。父の癌治療は先が見えず家の中が暗かったのもあって、同じ『終わりが見えないもの』でも、シークエンスの方は私にとって夢のように思えた。

EL-900のシークエンスボタン。今は次姉宅に置いてある。遊びに行ったときは時々弾かせてもらう。

そして2024年元日。地震が起こってから、これからは恩返しの意味も込めて制作すると決めていた。
その覚悟をしたとき、シークエンスボタンのことが脳裏によぎった。

漆の歴史自体は約一万年前の縄文時代からあり、それが現代も続いているのは間違いなく顔も分からない誰かが何年何千年何万年と漆製品を作るという行為を繰り返してくれたお陰である。先人たちがつないでくれた技術を今、私はなぞっている。
毎日毎日素人さんから見れば似たような行為を日々繰り返して漆の作品は生まれてくる。生まれてこれる。作業を通じて私は古い時代の誰かと対話している気持ちになることもある。その瞬間は時間の概念がなくなって、遠く知らない場所を旅をしてるよう。

そしてこの旅が、私が死んだ後の世代につながっていったときに初めて私は漆芸技術を学ばせていただいた能登に恩返しができるような気がしている。

まさにそれは《反復進行》と言えると私は思う。

【Sequence】:②《順序。連続しておこる順序。》

【Sequence】には他にも様々な意味があるが、《反復進行》以外で私が選びとった意味は「順序」。
今回もう一つ大切にしたのは「今手元にある素材で作ること」即ちロスを減らすことだった。

制作上どうしても出てしまう貝の端切れ、金継ぎで微妙に余る漆の下地、ホームセンターで捨てられかけてた木の小さな立方体たち。どれも素材としては申し分ないが、単体では量が足りなかったり、規格外というだけで外さざるを得ないもの。
確かにそれ一つでは成立しないけれど集まれば確実に何かを生み出せるモノたち。

私は性格上、そういうものを見捨てることができない。いや、したくないしさせない。

だって規格外と決めたのは本人(?)ではなくこちらの勝手な事情。命を持って産まれ、縁あって私のところに来てくれた子たち。
そして能登の地震は漆器制作に必要な材料の確保にも大きな影響が出ている。それは私だけの問題ではなく、全国の漆器の産地にも今も及んでいる。ならば一から何かを揃えて作るよりまずは「今手元にあるものを活かすこと」、その子たちをまず産むことが順番的に相応しいでしょう。それが順序でしょ?ってね。

実は展示が決まるまで期限は決めてなかったが、数年前から仕事で材料が余ったときは『今日は立方体の1面分なら塗れるな』とちまちま作業していた。
そうこうしている内に今回の「とどけるきもち展Ⅱ」の会期が決まり、『今こそあの子たちの産まれるタイミングなのか』と直感した。そして出来たのが【Sequence】だった。

苦しみと葛藤、それでも

ただ、正直今まで作ったどの子よりも、作っていて精神的に一番しんどかった。
信じようとしてた人から何度も裏切られながら「それでも」と受容しようと努力した中で最悪の出来事が起こり、私の心が砕け散ったからである。粉々の心をテープでつなぎ止めて、何とか人の形を留めてるような状態。

本当に苦しかった。泣きながらやった日もあれば、ここまでしてなぜ生きるのかと苦悶した。それは今もなお続く。
事情を知った友人知人のみんなが声をかけてくれて、食事を共にしてくれたお陰で生きながらえたし、主治医には相談の上投薬量を増やしてもらって何とか凌いだ。

それでも作った理由は「私は自分と、大切な人と交わした誓いを絶対に守りたかった」それに尽きる。
そしてその大切な誓い、そして祈りを蹂躙されたままでいることの方が耐え難かった。
だから事件が起こった8月初旬からの約2週間は、心も体も受け止めきれずに布団から這い上がるのがやっとという日々が続き『間に合わないかもしれない』悔しさでも泣いた。結局最終的には『間に合わせるぞ』の執念だけで手を動かしていた。
なので今満身創痍だし、ボロボロの心と体でよく頑張った自分を労いたい気持ちも少しある。

ただ、それはお客様には関係ない話なので直接話すことはないが、ご来場いただいた方々が螺鈿の青や緑の煌めきを見て笑顔を見せてくれた瞬間、それまでの努力が報われてむしろ私の方が救われた気がした。
そして縁あって【Sequence】を迎えてくださったお客様、本当にありがとうございます。この子が日々の暮らしに彩りを添える一助になれたら作り手として最高にうれしいです。

能登半島応援プロジェクト「とどけるきもち展Ⅱ」−あの日を忘れない−
日時:2024/10/6(日)〜13(日) 12時〜18時
会場:三番町ギャラリー
住所:埼玉県川越市南通町14-3 三番町ハウス103
MAP:https://maps.app.goo.gl/33omXmVuZ26MgHJN8