三人で車に乗り込み、夜の高速道路を走って、一路、西へ。目的地は岡山。時刻は夜の1時を過ぎていた。
夜間の高速道路は料金が安くなる。新東名が時間的に早い。そういった移動の知恵を、hiclyくんは持っていた。毎年、お父さんの実家がある愛媛まで、横浜から車で往復する習慣から得たものだった。
銀河鉄道

普段は寝ている時間で、眠気が襲ってくる。しかし、二人だけに運転をさせて申し訳なかったので、なるべく起きていることにしていた。hiclyくんとわかなちゃんは、10分間、けんかをして、5分間仲良くなるというルーティンを、ずっと繰り返していた。よっぽど仲がいい。やすきはその様子を後部座席から眺めていた。
神奈川県を抜け、静岡県に入ったことを、道路標識は伝えていた。高速道路から風景も、街ではなく、山ばかりになってくる。
横須賀にはない高さの山に囲まれて、西日本にいた頃を思い出していた。夜の山はおどろおどろしい。昼間は美しい緑も、夜になると色調を失う。人智が及ばないような恐ろしさを、自然は堅持していた。
そんな山間の地域にも、ぽつ、ぽつと家があるのが見えた。田んぼと畑に囲まれて、いくつか家屋があるばかりだ。横須賀は、地域によるが建物と建物の間が狭い。
あの家屋のひとつひとつに生活があり、喜び、怒り、悲しみ、楽しみを循環させて、生きている人たちがいるのだ。やすきは流れる風景と共にそれを想像するのが好きだった。
「やすきさん、あれを見てください」と運転中のわかなちゃんは車の窓へ促した。日本一の霊峰、富士山だ。「夜中に富士山を登っている人が見えるんです」、と教えてくれた。夜の富士山の登頂部に、蛍のような小さな光が見えた。日の出に合わせて、夜間に登っているらしい。
しばらく走ると、一際開けている街並が見えてきた。静岡市だ。人口は70万人以上を数え、横須賀よりも大きい。以前の旅で、清水区だけ行ったことがあるが、そこまで規模のある街だとは。静岡は清い雰囲気があって、いい土地であることを感じる。
わかなちゃんは静岡市が好きで、一度、暮らしてみたいという夢があった。では、静岡市で民泊をしたらどうかと話した。横須賀から距離も割合に近いし、二拠点生活もいいのではないか。静岡と横須賀の人をつなげたら、もっと面白くなる。
そこから、運転をhiclyくんに交代。わかなちゃんは助手席で寝て、やすきはhiclyくんとずっと話していた。横須賀のこと、これからの人生のこと。hiclyくんと、真剣に語った。
話してるうちに、あっという間に名古屋までたどり着いた。LEDのライトが強くなって、眩い光が星のように煌めく港が現れた。まるでSF映画のような光景だった。
驚くべき速度で移動しながら、夜も眠らない工業地帯の有様を見る。富士見町の、自然に囲まれた環境とは違い、とても無機質で、人工的で、感情を失くしたかのような眺めだった。このまま、銀河鉄道のように宇宙の果てまで続いていくのではないか。
名古屋を通り過て以降、やすきは記憶がおぼろげだった。もしかして寝ていてのかもしれない。夜明け前、時刻は朝4時あたりだっただろうか、後部座席から後方を見ると、もう空が白んでいるのだが、我々が向かっている西の方向はまだ暗かった。そう、太陽は東から昇るからだ。やすきは西から東にやってきた。時間が逆行し、万物が変転するような旅が、続いていた。それは、新しい空間への転進でもあった。