編集部員のスミーです。
編集部員共通のテーマとして、「自分に影響を与えた曲」というテーマで書くことになりました。
最初は「アルバム」を選ぼうと提案を受けたのですが、僕は根っからのインターネット音楽マンなので、「アルバムで曲を聞く」という体験がありませんでした。
なので無理言ってプレイリストを作る形にさせてもらいました。
さて、じゃあ曲選ぶか、と思ってお気に入り曲一覧を漁ってみたのですが。
こう、曲で変えられたと思うものが、思いうかばない。
いや、好きな曲はたくさんあるし、人生のターニングポイントで聴いていた曲もたくさんあるんです。
けれど、「曲で人生が変わった」なんてことは、ない。
僕は曲からメッセージを受け取ることはあるけれど、それは言葉というより旋律と息遣いから共感するものでしかない、というか。
あくまで先に僕が感じていたから、その曲を良いと思えたというか。
だから曲が人生を象徴することはあっても、曲によって人生が変化したという記憶が、ない。
まあでもそれで「ないです!おしまい!」とか言っても興冷めなので、今回は「人生の一部分を象徴する曲」のプレイリストを紹介することで代替としたいと思う。
だいたい人生の時系列順に並べている。人生が変わったあと、一歩遅れて曲が変わるような、そんなプレイリストになっている。
1. ハルジオン

出会ったのは中学二年生の頃だったか。僕が曲を曲として気に入り、曲名を覚えた曲はこれが一番最初だった。
その前にも好きな曲はあり、今でもサビのメロディは思い出せるのだが、ついぞ曲名を探そうという気にもならない。
この曲は友達から借りたMP3プレーヤーにBUMPのアルバムが入っており、その中に含まれていたものだ。学校からの帰り道、うたた寝しながら全曲シャッフルで聴いていて、すごく耳に残っていた。
何がいい、と言われても難しいのだが。BUMPは郷愁の感覚を曲に詰めるのが得意だと思う。ダンデライオン、車輪の唄、カルマ、あとは最近の曲だとSleep Walking Orchestraあたりが特に当てはまる。なんとなく、ハルジオンの旋律に合わせて息を吐ききると気持ちがいい。
そう、全曲シャッフルの一期一会で聴き、旋律と息遣いだけを追いかけるのが僕にとっての当たり前なので、一度すれ違ったらなかなかもう一度出会えないのだ。
この曲もAメロBメロサビのメロディだけ覚えて、あとは全部すっぽ抜けていた。
高校生になってからなんかの理由で天体観測を聴いて、そのときに「あっ、あの曲、もしかしたらBUMPなのか!?」と思い出したぐらいだ。
でも当時鼻歌だけで検索する精度は非常に低く、他にも「やたら旋律が心に残っている曲」が実は僕が無意識に旋律を作っていただけだったりとかしたので、しばらく諦めていた。
そして大学生のとき、家に帰るのがダルくカラオケ屋に籠もっていたとき、暇だからとBUMPの曲を頭からかけてた時に、偶然再会した、という具合である。
これ以来、好きな曲の曲名はちゃんと覚えておこう、Youtubeのプレイリストにでもなんでも入れておこう、と思うようになった。
そういう意味だと、僕の曲との向き合い方を決めた1曲、と言えるかもしれない。
2.EX-1. Sweet Rain
諸事情でプレイリストに入れられなかった思い出深い曲がいくつかあるので、いい頃合いで挟み込んでいく。
大学生になって、音ゲーを始めた。たまたまサークルで仲良くなった友人がゲーセン通いをしていて、それについていく形だった。
太鼓の達人やPop’n Musicなんかだと全くタイミングが合わず挫折した記憶があり、音ゲーに苦手意識があった。
しかし「光ったところをさわればOK」という触れ込みでjubeatを始めたところ、意外とイケてのめり込んだ。
大学二年生までは毎日ゲーセンに行き、休みの日でも横浜まで出てゲーセンに行くような生活だった。
ゲーセンの音ゲーでは「解禁」という仕組みがあって、継続プレイポイントを貯めると新しい曲が遊べるようになるのだが、Sweet Rainは最後から2曲目に解禁した曲だ。本当に大変だった。
オンラインサービスを使ってプレイポイントの最大化をする研究をするぐらいにはやりつくした。
そんなこともあってSweet Rain は思い出深い曲である。
アップテンポな曲であるが、なんとなく憂いも帯びている感じが好き。
あとはこの頃から女性が歌う曲ばかり聴くようになった。
男性の曲に比べて透明感があるサウンドが多いのが気に入りやすい。
3. すろぉもぉしょん

大学三年生の春。母が癌で倒れた。子宮頸がんだった。
父は仕事が忙しく、僕はサークルを引退していた。だから僕が病院への送り迎えをしていた。
どうしても大学を休みがちになり、友達との付き合いもなくなった。
そもそも人とおしゃべりするのは苦手だし、真面目な学生ではなかったから、サボる良い口実ぐらいに思っていた気がする。
甲斐甲斐しく世話を焼き、しばらくして母は入院生活に突入し、僕はさくっと孤独になった。
単位が足りなかったので、秋冬は必死に単位を集めることになった。疲れ果てていた。一人でいるときはゲームをするかニコニコで動画を漁るぐらいしかできなくなった。
そんなときに出会った曲だ。
のらりくらり のたうちまわり
じわりじわり 見覚えのない場所に
初期~中期のVOCALOIDの曲は、歌を歌うというよりピアノを弾くように演奏されているように感じる。原型は打ち込み楽曲だからだろうか。
孤独がどうしようもなく苦しい。不出来な自分が受け入れられない。
そんな苦しさを一緒に受け止めてくれた曲だった。
足掻いていればいつか何とかなる、そう信じさせてくれた。
4. Lose Yourself

ニコニコでは嘘字幕動画が流行っていた。
その中には「エミネム先生が教えてくれる」シリーズというものがあった。
憧れの仕事の厳しい現実や、それでもやり続ける意義などを語ってくれていた。
挑戦と成功、そしてその終わり。諸行無常の響きとはこのことか。
You better lose yourself in the music.
The moment, you own it, you better never let it go
You only get one shot, do not miss your chance to blow
This opportunity comes once in a lifetime
人生の歯車が軋んだとき、あるいは自らの制御を超えて回り始めたとき。
没頭をすることは突破口になる。そう歌う。
嘘字幕の裏で何度も刷り込まれた音。
そう、これはただの我儘な泣き言なのだけど。企業でやるプログラミングには答えがなさすぎる。
野放図な挑戦ではなく、コストバランシングが要求される。
「やる」ことではなく「説得する」ことが求められる。
当然だ。他人の金を使ってものを作るのだから、他人の意に即して作るべきだ。
しかし、それが僕の没頭を邪魔していた。
一人を説得すればいいなら話は早い。けれど、プログラムの裏には何千、何万もの人がいる。
それらの息遣いに耳を澄ませていると、自分の呼吸を見失ってしまう。
紅茶はいい。狙い澄ませ僕の呼吸で淹れるしかない。
対話はいい。不揃いの呼吸もうまいことやればセッションになる。
それぐらいの調和なら無理なく取れる。
文章は、……どうだろうな。路地裏で語る分には気楽なものだけど、ステージの上には銃口が多い。
銃口を向けられたとき、拳を掲げる力は、そもそも掲げるような拳は、僕にあるだろうか。
まあ、何者でもない僕が心配するようなことじゃ、ないのかもしれないけど。
ともあれここから僕は、没頭できるものを探す旅を始めることになる。
5.EX-2. Snow After Rainbow
jubeatをきっかけに知った曲。
4年生の初夏。ふとしたきっかけで大学をサボり初め、創作の世界に没頭し始めた。
正確に言えばPBW(プレイバイウェブ)というゲームだ。
PBWは、キャラクターロールプレイをしながらリアルタイムに進行するストーリーを愉しむ遊びである。
TRPG好きな人が多いので、「ああそのへんの界隈か」と思ってくれればよい。
キャラクターの設定・バックグラウンドに思いを馳せ、それをぶつけ合い、変化する。
自分では予想できない変化、一期一会の出会いがそこにあった。
文字で自分の息遣いを伝え、文字から相手の息遣いを読み取る。
互いの間合いを図り、たまに踏み込み、あるいは踏み込めなかったことを語る。
そういう遊びだ。
僕の文章はこの場で鍛えられた。
「読ませる文章だ」とお褒めの言葉をいただくことがたまにある。
それはきっと息遣いに拘って書いているからだろう。
これは門外漢の考えていることでしかないが、演技とは息遣いだと僕は思っている。
大きく息を吸って叫ぶ。細く息を吐く。
腹から息を吐く、胸郭で息を吐く。
それだけで伝わるものが全く変わる。
僕は文章を書く時、「音読した時どう発するだろうか」と意識を向ける。
ぽつりぽつりと発するのか、朗々と発するのか。なんとなく、文章のリズムでコントロールする。
そうすると、読んだ相手と自分の考えがシンクロしやすくなる、と思う。
閑話休題。キャラクターを作成するにあたって、音楽の力を借りることがよくある。
それはIBGM(イメージBGM)と呼ばれるものだ。テーマソングと言ったほうが通りが良いか。
他人の創作の力で自分のキャラクターのガイドラインを作り、
相手にもなんとなくキャラクターを理解してもらうわけだ。
素人がキャラクターをゼロから着想し、他人にイメージさせるなんて、
よほど作り込まれたタルパでも持っていないと出来ない。
仮にそんなものが出来た頃には統合が失調している。
僕はRainbow after Snowの旋律が気に入って、IBGMとした。
なにか美しいものに出会って、手を伸ばして、それをきっかけに崩れた少女。
灰をかき集めて人の形にした「それ」が、異能と共にゆく後日談。
そういうのを描いた。
千年先の旅路で君と出逢って 同じ顔をしているかな
音のない世界がやがて明けるその時
少しは 前を向いていたいな
さよなら・・
旋律に合わせて呼吸を整えると、視界の隅に”彼女”の髮が揺れる、気がしていた。
6. nine point eight

9.8m/s2。重力加速度。
物語と戯れて1年半休学したあと、無理やりに社会復帰したとき、
ちょうどDeemoという音楽ゲームアプリが出ていた。
僕は通学や就活の合間にそれをやっていた。その中で出会った楽曲だ。
Miliの歌声とピアノは耳によく馴染む。
rainbow after snowもそうだが、ガラスのように透き通った声が気に入った。
覚悟を決めた人の息遣いがした。どういう意味かはぜひ歌詞を調べてみてほしい。
当時の僕は、”彼女”がこれを選んだように思っていた。
ちょうどストーリーが佳境に差し掛かり、色々と心に来ることがあったようだ。
“彼女”は千年の孤独に耐えかねたらしい。IBGMがこれになった。
だがそんなことはあり得ない。
“彼女”を差っ引いて僕の話をするならば、きっと僕はこの時から心を殺すことを選んでいた。
たとえ心がなくても、没頭すればなにかになると信じて。
なにかに向かって落ちていくサウンドに呼吸を合わせると、全部を忘れてしまえる気がした。
このあたりで僕は一度、人の呼吸がわからなくなる。
社会に飲まれていくうちに、時間も体力もなくなり、僕は自然とPBWから距離を取るようになった。
7. 正義

社会人三年目。まあまあ仕事で成果を出しながら、苦しい日々を送っていたころ。
ひょんなことから彼女が出来た。
彼女が「秒針を噛む」を聴いてくれというので、ずっと真夜中でいいのに。を聞き始めた。
多分彼女なりの訴えがあったのだろうと、今は思う。
思うが、それ以上にずっと真夜中でいいのに。の息遣いに惹かれていった。
初期の曲で特に惹かれたのがこの「正義」だ。
秘密を隠し通すことが 正義なら
青い風声鶴唳 押し込んで
いつでも帰っておいでって
口癖になってゆくんだ
大切なものを守ろうとして、大切にするために熱を使って、冷えていく。
そんな感覚が自分に近く感じた。
それでも生活を守るためには、頑張らなければならないと思った。
元・彼女とは今でも親交があり、たまに話すのだが、おそらくこのときの僕もまた、全てを抱え込んでいたらしい。
最初は良かった。しかし炎上案件に投入されることが決まり、バランスが崩れていく。
8. CORE PRIDE

この曲は唯一、今回のプレイリストでなるべく聴かないようにしている曲だ。
早鐘を打つようなドラムビートが、否応なく戦闘モードに切り替えてしまう。
自分が経験した中で最も酷い案件だった。体制図を見た瞬間に「駄目だ」と思った。
しかしここで僕は「なら自分がやらなければ」と思ってしまった。
若手のホープと呼ばれ、実際大立ち回りをし続けたからこそ、そう思った。
知らない技術がふんだんに使われた独自フレームワーク。
既存のアーキテクチャだと確かにしっくり来ない箇所を解決するアーキテクチャ。
コードを読み解き、理解し、動くようにしていくのは楽しかった。
このときからプログラムの声が聞こえるようになった。いや、声というのは正確ではない。
プログラムの意図を効率よく読めるようになった。
多分小学生の頃ハマっていたペンシルパズルの見方と、キャラクター創作の見方が自分の中で融合したのだ。
だが初代PMが誰からの信頼も獲得できずクーデターが起き。
二代目PMが重圧とあまりにカオスなプロジェクト状況に耐えられずダウンし。
全体の状況が把握できるポジションに僕が立つことになった。
新卒三年目である。
本当にきつかった。常に質問対応やトラブル対応に飛び回りながら、定時後に自分の開発を進める生活。
日に日にトラブルが大きくなっていく開発。
なんとか気力を奮い立たせるべく、Amazon Musicで音楽を聞きながら作業していた時に、出会ってしまった。
どうしたって 叶わない絵空事だろうが
胸を燃やす火は誰にも消せやしない
空から降る黒い雨が この身濡らし降り止まなくとも
まだ消させはしないこの胸の火 それが「プライド」
まだまだ消えるな 心の火を
まだ忘れたくない 胸の熱さを
まだまだ消えるな 心の火を
まだまだ行けるぞ 行けるぞ
とても気合が入る曲だ。だが、ここで問題が一つある。
プロジェクト状況がかなり破滅していること……ではない。
もともと僕はシステム開発の仕事は「社会を最高効率で学ぶため」にやろうとしていた。
30にもなったらシステム開発を辞める準備をして、やるべきことを探そうと思っていた。
プログラムはまあ、中高大の杵柄でなんとなく出来ただけ。
プライドなんて、一個もないのだ。
なのに存在しないプライドをでっち上げて気力を振り絞ったらどうなるか。
まだ技術を知らない子たち。体制図の関係で上手くいかないコミュニケーション。
報告を信頼してくれない顧客。
呼吸を合わせる。まだ出来ると信じることにして、気力を振り絞る。
そしてタスクが一つ終わる。しかしまだ山のようにタスクがある。
勝利すら虚しい戦場がそこにあった。そして、その虚しさに僕は耐えきれなかった。
9. 雨とカプチーノ

僕は存在しないプライドを振り絞ったツケを払わされていた。
ストレスから来る散財。24時間インドア生活から来る体力不足。
そしてそこから来るメンタル不調。
メンタル不調だから新しい趣味や、出会いに目を向けることも難しい。
そして稀に仲良くなった相手に重たい感情を向けてしまい、トラブルになる。
人生が真っ暗だったように感じた。
転職し、バックアップ体制が強化された会社に入社しても、それは変わらなかった。
体力があんまりなく、プライドもなく、
「役割を果たさなければならない」という意思だけで仕事をしていた。
仕事がうまくいっても喜びはなく安堵だけがあった。
そしてそもそも、些細な失敗に目が行って、苦しい時間も多かった。
「そんな働き方をしていると死ぬぞ」と上司に言われた。
そんな折に箱根は〈天山湯治郷〉に来た。雨がしとしとと降る初夏の日だった。
青々とした森。山沿いにうねる道並み。硫黄の雑じるペトリコール。
そんな世界に、透明感のあるヨルシカのサウンドがマッチした。
ずっとおかしいんだ 生き方一つ教えてほしいだけ
払えるのもなんて僕にはもうないけど
何も答えられないなら言葉一つでもいいよ
わからないよ 本当にわかんないんだよ
湯にあたり、濡れた手では何も出来ず、ただ静かに過ごす。
そんな時間が、疲れ果てた僕を癒やしてくれた。
ヨルシカはよく「役割」について歌っている気がする。
自分で自分の人生をデザインしたはいいものの、それが致命的に苦しかったり。
そこまで心を壊すぐらいなら、全部捨てたっていいじゃないかと歌ったり。
少し前のめりだった心を落ち着かせてくれる曲だ。
10. アカシア

小田原ぐらしがかなり落ち着いて、生活を作れるようになったころ、この曲と出会った。
ポケモンは特別好きなわけじゃなかったが、BUMPのサウンドは未だに好きだった。
冒険をワクワクで彩る旋律。
息遣いは少し大人になって、人を愛せるようになった人のそれだった。
そして何より珍しく、歌詞から刺さった。
ゴールはきっとまだだけど
もう死ぬまでいたい場所にいる
隣で 君の側で
魂がここだよって叫ぶ
自分の魂にリンクしているように思った。
子供の頃からずっと、「人にものを教える」仕事をずっと見ていた僕は、
自然と「人にものを教える」ことを目指し、
だからこそ「今のままでは駄目だ」と遠回りすることを選んだ。
遠回りで疲れ果てた心に、前の気持ちを思い出させてくれる曲だった。
まあ、よくよく考えてみればただ寂しかっただけなのかもしれないけれど。
30を過ぎてから、伝えられることをまとめるとき、この曲がちらつく。
11. 伝言

ふと仲良くなった人に教えてもらった曲。
エーリッヒ・フロム「愛するということ」をちょうど読み切った頃に聴いたので、
「そのまんまだなあ」と思った記憶がある。
生きることとは 苦しむことと 真実そうに 誰かが言った
そんな真実は 全身全霊で 否定してやる
だから誓ってやるんだ 愛を誓ってやるんだ ただ神様に誓うわけじゃない
生きる痛みを感じて思う
人は苦しむために生まれたんじゃない 人は幸せになるために生まれた
思えばずっと、「ここではないどこか」を求めて動き続けてきていた。
誰にも許されてないことなんてないのに、「許してほしい」と零してしまう時があった。
誰でもない、自分自身が、自分自身を「苦しむべき」と呪っていたから、こうなっていたのだろう。
だからこそ、自分の状態を抜きに他人に全精力を注がなければならないと、そう思ってしまったのだろう。
人から想われるにはどうすればいい 今でも僕に問いかける
それは自分を想う延長線にあると答えてみる いや そう信じている
自分を想うことってさ どんな事だろう
それは日常の何気ないものと向き合う事だよ
順番が、逆だったというわけだ。
人から距離を取った小田原ぐらしで、生活を少しずつ立て直すことができた。
些細なことを大事にして生きることで、僕はかなり落ち着きを取り戻すことができた。
今でも先のことを考えて死にそうになる時は、この曲をかける。
12. in your arms

小田原暮らしで聴くようになった曲の一つ。
雨とカプチーノのような、しっとりとした雨音が聞こえてくるようなサウンド。
Lo-Fiが好きだと気づいたのはこの曲がきっかけだった。
歌詞は、韓国語らしい。
謎のハモリだなあ、と思って今日調べてみたらそう書いてあった。
本当に歌詞で曲を聴かない。
小田原で暮らしてから、自分の中に「心の井戸」をイメージするようになった。
汲み出し続ければ枯れ、再び満ちるまでには時間をかけるしかない。
〈天山湯治郷〉でひたすらに湯に当たり続ける時間がそれを教えてくれた。
湧き水がピタリピタリと音を立てる様をイメージする。
本当に少しずつ、気の遠くなるような時間をかけて、水が湧く。
石に苔が生し、木が生い茂り、風が心地よくなる様を思い浮かべる。
そうやって過ごしていると、少しずつ回復していくのだ。
僕は人と会う前にこの曲をよく聞いている。
そうすると落ち着き払って人と接すことができる。
その結果多くの人と仲良く出来た。
まさにこれは「スミーのIBGM」というわけだ。
おわりに
以上10曲が僕の人生をなぞる曲だった。いかがだっただろうか。
人生を変えられたような気もするし、別件で人生が変わった後に出会ったような気もする。
だがどちらにせよ、僕の傍にあった曲たちには違いない。
しかしこう、全体を見て考えると、僕は「役割を演じる」ことに対して強い拘りがあるようだ。
キャラクター創作はダイレクトに演じることである。
没頭することも演ずることに通じる。
そして何より、「格好いいエンジニア」を演じることで心を壊し、
今は「落ち着いた人」を演じることで心を守っている。
演技であること自体は問題ではない。
ただその演技をする目的を見失うと、役に取り殺されてしまう。
だから僕は、僕の目的を誰よりも見つめ続けないといけないと、思う。
ぜひこれを読んだ皆さんも、自分の人生を10曲で語ってみてほしい。
これが結構いろいろ示してくれて面白いのだ。