茶の時間について ――中国茶専門「好日」レポ side.スミー

こんにちは。編集部員のスミ―です。

この度編集部員のミカさんと一緒に、衣笠にある中国茶専門カフェ「好日」さんに遊びに行ってきました。
その時にあったことや感じたことをつらつらと書いてみます。



ミカさんサイドのお話はこちら。

ミカさんside

いきさつ

そのお店のことを知ったのは、徹夜明けの勢いで「紅茶専門店でもやるか!」なんて言ってやすきさんと商工会議所に足を運んだときのことだった。


商工会議所では現在、古い店舗を使った新規開業の支援をしているらしいということで、支援したり縁がつながったりしたお店の話を色々伺っていた。
好日さんはそのモデルケースの一つだった。

なんでも古民家を改装して開業したらしい。
素朴ながらも居心地いい内装の店らしい。


「同じ……というのもちょっと失礼な表現かもしれませんが、お茶の専門店ってなかなかないですし、中山さんのように古民家でやられているわけですし、参考になると思います!」とのことだった。

こちらも紅茶専門店をどういう雰囲気にするかは非常に大きなテーマだったので、ぜひ、ということで話をした。
その話をやすきさんがミカさんにしていたみたいで、「今度行きましょう」とミカさんと話したのが7/14のこと。

そしてたまたまめちゃくちゃ暇そうにしていたのを見かけて、朝Twitterで声をかけた、という経緯である。
やすき、すまんな。

(うぅ… 註・編集長のうめき)

店の持つ「魔力」

ところで、良い個人店というのはその店特有の魔力があると思っている。

魔力というのはオカルティックな表現だが、なんのことはない、内装や店主が醸し出す雰囲気のことだ。雰囲気によって顧客の体験がいい意味で尖り、顧客がその体験を少しずつ周囲に伝える。新しい人は前の人の体験に倣い、同じようにサービスを受けることで、店全体が特殊な場となる。


「店に来てサービスを受ける」こと自体が一つの儀式となった集団になることで、規範を共有した集団だからこそ起こせる現象が起きる……という具合だ。


個人店のほうがよく魔力が籠もるが、チェーン店でもスタバの店員など、店に魔力を込めようとする人は探してみると意外と見つかるものだ。

僕の好きな個人店は、エデン横浜しかりhatisしかり、No.13しかり、魔力がよく籠もっていると感じる。また、エデン横浜でもしばしば魔力のあるイベントが発生し、そういうイベントは参加者全員がいい思い出を持って帰っていたように思う。


いや、これは詭弁だ。僕が魅力を感じる観点が上の通りであり、それを「魔力」と表現しているにすぎない。

ともあれ、このような魔力が籠もると特殊なことが起こる、気がしている。

たとえば、行く度に新たな出会い、新たな視点が発生し、人生が転がってしまう店がある。
たとえば、たまたま隣同士だった見知らぬ客と、他愛もない話で盛り上がり、名前も知らないのに定期的に出くわすようになる店がある。
たとえば、最短ルートで行こうとすると必ず道に迷い、少し遠回りしないとたどり着けない店がある。

ほとんどは「共通の行動規範を持つ集団」として解釈すれば説明がつく現象だが、最後のものは謎だ。多分僕が「縁を繋がないと行けない店だ」と思ってしまったが故にそうなっているような気さえする。

閑話休題。この日行った「好日」も特殊な店だった。


衣笠十字路のバス停で降りて10分ちょっと。雲が出てきてよかっただの、衣笠城を攻め落とすならどう行くか、いや今はトンネルがあるが昔は一帯山だったはず、それなら葉山から向かうべきか、などと益体もない話をしながら向かっていると、ロードサイドに小さな小さな看板が見えた。


「見えた」と表現するのも語弊がある。僕が事前にルートを調べ、距離感・方角を確認していたために、「この辺りに何かしらあるはずだ」と思っていたから見つけられたというのが正しい。

ロードサイドを外れて、横須賀特有の急坂を登り、そこにあったのは何の変哲もない一軒家である。「好日」と書かれた看板がくくりつけられているから、店だとわかった。


ミカさんは「本当に入っていいのか」とちょっと不安がっていたが、表に看板もあるしええやろ、とインターホンを押せば、店主が迎え入れてくれた。

そこはカフェというより別荘然としていた。
庭によって少し和らげられた陽の光。
棚に並べられた大小様々な茶筒。
古箪笥の上に並べられたこけし達。
店主が差し入れてくれた冷茶としろくまキャンディー。

田舎に里帰りして一息つくような感覚を覚えた。これはよい店だ、と僕は直感した。

中国茶を愉しむということ

中国茶というものは、同じ茶葉から何煎もとり、長い時間をかけて味わうものらしい。
テーブルにはケトルが2つ備え付けられており、それからオーダーした茶葉を持ってきてくれた。

急須に、少し形の違うポット(淹れた茶を一度茶葉から離しておくためのピッチャーだ。なんでも「茶海」と呼ばれるものらしい)。ガラスのお猪口に、ドライフルーツや種を煎ったお菓子(ひまわりの種をかじったのは人生で初めてだ)。左上の葉っぱの皿は、茶葉を乗せていた皿だ。


ミカさんが器について深く話を聞いたところ、どれも作られた国が違うらしい。
僕は器のことはまるで不勉強だが、ブランドで揃えることもなくここまで違和感なく設えるのは繊細な感覚が必要だろう、というのは察せた。


(ミカさんは器好きが昂じた結果、近所の犬の散歩に出くわしたかのような猫撫で声を出していた。愛されているものを見るとそうなるのは、わかる。)

僕が頼んだのは蜜香紅茶だった。ウンカという虫が食った茶葉で、そのおかげで蜂蜜のような特殊な香りを感じるのが特徴らしい。しかしそれは香りだけで、味わいは紅茶としてはかなりスッキリとしたものだった。セイロンティーで例えるならヌワラエリヤの味わいに近い。


なぜだろう、と思って淹れた後の茶をほじってみたところ、なるほど茶葉のサイズが大きく、ほとんど砕いたりしていないようだ。


紅茶ではしばしば「ブロークン(乾燥後にある程度の大きさに砕く)」茶葉を使って淹れるため、比較的早く濃く成分が抽出され、二煎する頃にはもう味わいがなくなってしまう。しかし、フルリーフではなかなか茶葉から成分が出づらいのだ。故に1煎目では香りが強く出て、2煎目では味わいが強く出る傾向がある。これは煎茶でもよくやるやり方だ。実際5煎ぐらい淹れていくうちに、だんだんと香りはマイルドになり、味わいは紅茶らしい強いものになっていった。

同じケトルで湯を沸かす。それぞれの急須に注ぎ、一分待つ。茶海に注ぐ。
茶菓子を齧りながら茶を啜る。茶を味わうリズムが少しずつズレる。


一息ついたと思ったら相手のタイマーが一分の経過を告げる。
それを見て、それならともう一度湯を沸かす。
気づけばあっという間に2時間が経っていた。当初予定していた帰りの電車はとっくに過ぎている。
無計画で、無秩序で、それを互いに受け入れ合う時間。茶を飲むというのは、そういうことなのかもしれない。

違う国、違う景色、同じチャノキ、同じ時間

飲みながら他愛もない話をした。その中に、茶を飲む風景という話があった。

中国・台湾では、茶は茶葉で持ち歩き、湯を貰って茶を飲むそうだ。


「湯を貰う」という風景が一瞬想像できなかったが、なんでも日本のそこら中にカフェがあるように、湯と場所を提供してくれる店があるようだ。いや、列車の客席にも湯沸かし器があるのは日本以上の拘りである。


茶葉が先か店が先かは見当もつかないが、一つの茶葉を何度も使えるし、何度も使わないと味わい尽くせないからこそ、このような時間の過ごし方をするのだろう。

ミカさんがふいに、ベトナムの話をしてくれた。
ベトナムではハス茶をポリバケツ一杯に淹れ、それを互いに柄杓でグラスに注ぎ延々と飲むそうだ。あまりに暑すぎてそうでもしないと倒れてしまうのだろう、と言っていた。
すごくアジアンな風景である。しかし、僕の脳裏にはもう一つの風景が去来していた。

代々木上原にあるムレスナティーハウス。そこではティーフリーと称し、2時間の間何度も何度も紅茶を次いでくれるサービスがある(むしろそれ抜きにサービスを受けることができないので、行くなら長居することになる)。
僕はよくそこに香りの研究のために一人で行くのだが、だいたいのお客さんは2~3人で他愛もない話をしている。


そこには様々な関係が穏やかに共存していた。そしてただ、時間の許す限り「茶を注がれ、茶があるから話をする」ということをしていた。

ティーフリー然り、中国茶然り、ポリバケツ一杯のハス茶然り。茶を汲み、あるいはそれを受け入れるということは「その場にいる」ことを受け入れることである。そしてそれ以上でもそれ以下でもない。
相手が何を信条としているか、何を考えているかに拘らず、ただその場にいるという選択をしていることである。
それが僕にとってひどく心地よいからこそ、紅茶に惹かれ、このとき既に味も薄くなってきた茶葉に湯を注ぐに至った。

仕事の合間、タバコを咥えコーヒー缶を片手に立ち話をする時間は、そうだろうか。
何軒もハシゴしながら酒を酌み交わし夜を明かす時間は、そうだろうか。

それぞれに風情がある。だからこれは善し悪しではないのだが、茶だから出来る時間の過ごし方が確かにある。
中国原産のチャノキは、品種改良こそされど、台湾・インド・スリランカ・ベトナム、そして日本に伝わっている。

夕暮れの借景を眺めながら、じわりと温まるひとときだった。

好日 中国茶カフェ
場所:横須賀市小矢部3-3-3
営業時間 12:00~18:00 月火定休
Instagramhttps://www.instagram.com/tearoom_kojitsu/

map https://maps.app.goo.gl/YaYd137jrVgz2KVr9