あれは夏よりも前だったか。
上町を歩いていると、軒先に古本が入った木箱が置いてあるのを見つけた。平坂の途中、カフェバーだった場所の前。このカフェバーは、横須賀に移住する前は開いていたが、移住後、気がつくと閉めていた。
中をのぞいてみると、カフェバーの内装で、洒落た空間に本がぽつぽつと置いてあった。
眼鏡の男性が迎え入れてくれた。その方が店主の方だった。
〈hatis AO〉というスパイスカレー屋を富士見町でしているんです。とやすきは自己紹介をした。すると、店主さんは次の日の土曜日、店に来てくれた。
それが出会いだった。
静かな世界
〈圏外書房〉さんはたしか金土しかやってないので、なかなか行けない。たまに、金曜日にランチ営業で終わった後、訪れて、本棚を眺める。行くたびに、「今日は店はどうしたんですか」と尋ねられるのが恒例だ。
店主さんは農業もやられていて、無農薬の野菜をつくっている。自作のハーブティーを出していたり、野菜をくれることもあった。
やすきの田舎の岡山県津山市でも、そういうことが、よくある。農業を趣味でしている人が多いから、あまった野菜をくれたりする。あまって、どうせ捨てるしかないからだ。店をしていて、いただいた野菜を出すこともあった。
だから、今回のXのバズも、令和の童話ということではなく、そういう世界もあるということだ。優しさで、分かち合う世界。

〈圏外書房〉さんでは、めずらしいフランスの無農薬カシスリキュールも置いてある。飲んでみると、カシスの強い旨味がある、美味しいお酒だった。
このところ、欲しい本が並んでいることに気づいた。永井宏の『愉快のしるし』、上林暁の作品集。上林暁は、関西にいたころ、阪神競馬場のアンティークフェスで見かけて、気になっていたのだが、作家名をわすれていて、〈圏外書房〉さんで見かけて思い出した。店主さんが丁寧に説明してくれた。京都で人気の作家さんらしい。
〈圏外書房〉さんは、静かな世界だ。お酒を飲みながら、カウンターで店主さんと文学の話を話しているお客さんもいるし、ひとり、テーブルでランプの灯をたよりに読書に耽っている人もいる。
hatis AOのお客さんで、若い女性の方がいるが、〈圏外書房〉さんのファンで、行くのを楽しみにしている。
〈圏外書房〉という名前は、インターネットをつかって店を宣伝しない、という店主さんの意志から生まれたもの。
今回のバズで有名になったろうが、どうぞ、静かな世界を壊さないように、ご配慮願います。