追浜のブルース

今週は、アルバイトの現場が追浜だった。富士見町に住んでいると、追浜にはあまり行く機会がない。

追浜は横須賀市の北部にある地域。横浜との境にあたる。工場地帯で、よく仕事の募集があるところだ。

意識の違い

かつて横須賀は自動車工場が数社あり、仕事に溢れていた。しかし、近年は工場が撤退し、衰退の原因のひとつにもなっている。

追浜にはまだ、日産の工場が残っている。朝、駅のそばの商店街には、工場行きのバス乗り場に行列が出来ている。朝7時に着くとすでに列ができているので、8時には就業を開始しているのだろう。

駅前は、チェーン店と、地元のお店が混在していて、混沌としている。横須賀の他の地域にはない空気感。

日雇い労働者も多かったのだろう。今は大丈夫だろうか、危ない香りが街のところどころに残っている。

偶然にも、追浜出身の人に出会って、追浜についての話を聞く機会があった。

私の店〈hatis AO〉のお客さん、横須賀中央の〈Blue Note〉でお酒をおごってもらった年上の人たち、追浜のヴァン・ナチュールのお店〈lulu〉。

追浜出身の人たちと話していて、感じたのは、意識が横浜寄り、ということだ。買い物に行くにしても横須賀方面に出るより横浜に行く。都会的な意識を持つ人が多いのだろう。

〈lulu〉では、店主の丸茂さんと、ご一緒させて頂いたお客さんがどちらも追浜出身だった。

お話の中で、鷹取山という聞きなれない地名が挙がった。横須賀側にいると聞き慣れない名前だ。

鷹取山は横須賀と逗子をまたぐ山で、別名は湘南妙義とも呼ばれる。そう、もうすぐそばに湘南がある。私が住む富士見町から自転車で葉山まで出かけていたが、木古庭を抜けて1時間ほどかかるし、京急でも金沢八景まで出てたら逗子方面に乗り換えなければいけない。湘南がすぐそば、という感覚はない。

鷹取山を歩いて行くと、気がついたら逗子に出て行くこともある、と教えてもらった。

浦賀で生まれた人はあまり追浜に行かない、のではないかと思う。横須賀は広いので、生まれた地域によっては他の地域のことを知らない人もいる。

私はよそ者で、好奇心がある方だから、横須賀のいろいろな地域について知りたい。ほうぼうに出向く。横須賀生まれの人は、案外、地元については詳しくない。私が津山についてよく知らないのといっしょだろう。

追浜は工業地帯なので、昔は水に匂いがしたらしい。近頃は水が綺麗になって、釣れる魚も変わったそうだ。クロダイも採れるようになった。安浦港の直売所で、はじめてその場で捌いてもらった魚がクロダイだった。クロダイも、今だから食べられたのだろうか。

駅前にスパイス屋を見つけた。昔は、日系ブラジル人がよくいたらしく、その名残だろう。日本からブラジルに移住し、その子孫たちが日本の横須賀で再び働いていた。長い年月を跨いだ、途方もない話のように思えた。

時が止まる

現場の追浜本町は静かな場所だった。横須賀らしく、山を削り取った上に家が出来ている。比較的、新築が多いように見えた。富士見町近辺では見ないような、立派な身なりをした人を何回か見かけた。黒いジャケットと、中田英寿がするような紫のマフラーを巻いた男性。

方面は違うが、〈Tsukikoya Coffee〉さんも追浜にある。比較的、裕福な人たちも住んでいるのだろうか。

追浜本町には、猫も多かった。現場の近くには何匹もいた。首輪をしていなかったが、警戒心があまりなかった。地域の人に可愛がられているのだろう。

冬だから、だろうか。水道管が破裂して、水が噴き出ているのを見た。初めての経験だった。

追浜本町は時が止まっているかのようだった。