大晦日。昨日の営業はスパイスカレーが大量に余った。客足は少なかったものの、重要な出会いもあり、来年につなげることができた。
その内の1人は、ヨシさん。横須賀市内で居酒屋とラーメン屋、2店舗を経営している。野口さんの紹介で来てもらった。明るく、いいバイブスの持ち主だった。
営業後、〈No.13〉に行って野口さんに挨拶しにいく。来年の頭に共同購入する生豆の相談をした。
疲れて寝て、朝5時半に起床。
余ったスパイスカレーの副菜を弁当に詰めて、出勤。今日も畑で七草を刈る作業。
壮大な絵のように

横長の段ボールに一枚の仕切りを入れて、七草が箱に収まる長さに切り揃える。同じ長さになるように、繁茂した七草をまとめてから、捻り取るように包丁でカットする。
朝から日が暮れるまでそのくりかえし。
畑は津久井の山側にある。目の前には太平洋が広がっていて、千葉の房総半島が望む。皺が深く刻み込まれた同僚のおじさんに、あれが鋸山、富山と教えてもらった。
逆方向には、富士山と伊勢半島が見渡せる。海には、太陽の反射光がまどろんでいて、壮大なVR映像を見ているような気分になった。
津久井を円の中心に置いて、富士山や伊勢半島まで80キロメートル。この光景には、それだけの距離があって、多大な情報量が含まれている。
目前には、グリッド状に並列されたキャベツ畑が広がり、その向こうにVRが展開されている。
横須賀に住んで1年になるが、こんな場所があるとは知らなかった。自転車のタケシと三浦半島の主だった場所には行ったが、まだまだ知らない場所はたくさんある。
仕事中、グリーチネさん(仮称)というおっちゃんに話し掛けられた。黒色のニットをかぶり、青い迷彩柄のダウンジャケットと、カーキ色のズボンを着ている。年齢は50代だろうか。白髪がニット帽から溢れている。
グリーチネさんは明るくおしゃべりな方で、七草を包丁で刈りながらいろんなことを喋った。
今は横須賀に住んでいるが、沖縄への移住を検討中だという。サトウキビの畑で働きたいらしい。
話を聞いていると、感覚を大事にした生き方をした人だった。サーフィンをしていていて、海が好き。だから沖縄に住みたい。しごく快活で、シンプルな選択。
独り

午後3時に3度目の休憩があり、あたたかい缶コーヒーと、お菓子が支給される。お菓子はチョコレートとおかきの小袋を、いくつかもらえる。この日は分厚い雲に覆われて、体が冷え切っていた。缶コーヒーで体を暖めながら、グリーチネさんと海のVR映像を眺めた。
「俺も、離婚して、独りで住んでいるんだよね」
グリーチネさんは、目を細めながら、そう話してくれた。
私も独りになってから、1年が経った。ということは飼い猫のアストラッドが亡くなってからも、1年。
庭先にアストラッドのお墓を作り、毎朝、拝んでから出勤している。いま生きているこの人生は、アストラッドの命がくれたもの。1日1日を、大切に生きなければいけない。
仕事がおわって、帰路に着いた。家に帰り、扉を開けて、電気をつける。スパイスカレーの残りをあたためて、皿に盛る。白湯といっしょにたべる。
台所には、オープン前に鎌倉で働いた同僚のおばちゃんからもらった皿。調理動画。自分で買い揃えたハンドミキサー。三春町の珈琲屋〈のこや〉からゆずってもらったコーヒーミル。ジモティーでもらったオーブン。
ひとつひとつのものに、ストーリーがある。台所は、さながら思い出の博物館のようだった。
これから

たくさんの人の優しさに支えながら、今日を生きている。大変な1年だったが、同時に濃密でもあった。5年間を過ごしたような厚みがあった。
週末がくれば店を開けて、だれかが来てくれる。寂しさが紛れる。
今朝、出る前に、玄関に飾ってある「碧のはじまり」と目があった。コーキが描いてくれた絵だ。毎日見ているはずなのに、目があった、と感じた。絵の表情がいつもと違うのだ。
スタートは切ることができた。そして、これから。
支えてくれる人たちのためにも、今日、一歩でも前に進んでいく。
水瓶座土星期の水星逆行。年始は、すこし足を止めて、振り返りをしたいと思います。
今年はありがとうございました。来年も変わらぬお引き立てをお願いします。