エデン横浜の忘年会

年末、エデン横浜の忘年会に野口さんに誘われた。年が暮れる前ににもう一度、エデン横浜に行きたかったが、時間がとれずにいた。12月28日の水曜日、エデン横浜がある天王町まで出ることにした。

その日は年末年始だけの農園のアルバイトの初日だった。

話し掛けてきた人が、たまたま横浜の天王町に住んでいる人だった。僥倖だ。エデン横浜引き寄せられている。

横浜駅へ到着。前回にエデン横浜に行った時は歩いて行ったが、今回は時間がもったいないので電車で行くことにした。路線は総武線。乗ったことがなくて、見つけるのに苦労した。

横浜は都会だ。駅には、矢のように人が飛び交っている。みんなそんなに急いで、どこに行くのだと言うのだろう。

ふと目の右下に、姿が映った。横浜駅の地下街の柱に、座り込んでドーナツを頬張るおじさんがいた。みんな目的をもってどこかに向かっているが、ドーナツおじさんはその流れに逆らっていた。邪魔になるので、止まることをゆるされないないが、公共の場であるし、別に止まったってかまわないのだ。

ちゃんこ鍋

天王町駅に着いて、エデン横浜駅へ向かう。駅周辺は栄えていて、たくさんの店の灯がついている。エデン横浜に近づくほど静かになっていって、人通りがなくなる。すこしだけ、空気がザラついている。

横浜は、道幅は横須賀より広い。店はぽつぽつあって、どこも人は満杯になっている。1本130円の焼き鳥屋屋があった。焼きおにぎりが260円で、そっちを食べたいと思った。

エデン横浜のあるビルにたどりついた。扉の前に、緑色に髪を染めた女性が年配の男性と話していた。女性は私に気づくと、「どうぞ、ありがとうございます」と中に案内してくれた。

中に入ると、先に到着していた野口さんが高橋さんと飲んでいた。カウンターにはおりえさんがいらした。店主のきりさんは室内の窓側で肉を焼いていた。

エデン横浜は賑わっていた。15人はいただろうか。ソファが円を囲むように配置され、机の上にはお酒やお肉が置かれてある。

高橋さんは私を迎えてくれた。ビールをひとつ注文する。ほりえさんにどちらがいいですか?とキリンとアサヒを提示されて、右のキリンを選んだ。

3人で乾杯して、高橋さんに先程の緑色の髪の女性を紹介してもらった。さちこさんという料理人の方で、今夜の料理をつくっていたようだった。

カウンターに置いてあったちゃんこ鍋を薦められた。少し待ってくださいと言われ、15分ほどして、紙皿にだしてもらった。

これがもう、めちゃんこ美味しかった。出汁が濃厚で、深みがある。おかわりして2杯食べた。

ちゃんこ鍋を食べてから、さちこさんにいつから料理をされているんですか?と尋ねた。すると、う〜ん、と宙を見ながら答えあぐねていた。その反応から、空気のように、料理がすぐそばにあったことが伺えた。

高橋さんは私と野口さんのどちらの店にも来てくださっている。私と野口さんの動画も見てくださって、熱意というか、気持ちを感じとってくれていた。だから2回も、わざわざ横須賀まで足を運んでくれたのだろう。

高橋さんの隣にりょうさんという方がいて、3人でいろいろ話した。お2人とも、とてもいい笑顔だったのが印象的だった。この場の空気を、心から楽しんでいた。

居場所

この夜、エデン横浜にいた人たちは、各々が自由に過ごしていた。強制的な連帯感もなく、バーにありそうな緊張感もなかった。それがすごく心地よかった。

前日に創始者であるえらいてんちょうさんの本を読んだ。その本の中で、「しょぼい喫茶店」の話が共感できた。目的のない場所が作りたいとあった。話を聞くと、きりさんも似たような気持ちだという。

私も、場所に救われたことが過去に幾度かあった。神戸のclub Pi;z、津山の〈レインボー食堂〉、〈丹後山アパートメント〉。

就職や仕事がうまくいってなくて社会から爪弾きにされたような気分になっていた。実家にいたけど、居心地はよくなかった。早く出て行ってくれ、と両親から無言の圧力が掛かっていた。でも、どうしようもない。

そういうとき、家でも職場でもない場所に助けられた。人のご縁もできるし、気が紛れた。

きっとエデン横浜に救われている人もたくさんいるんじゃないかなあ。きりさんが肉を焼いているのを見ている人たちがいて、そう感じ取れた。

目的がないと、どこにもいられないというのは、哀しいことでもある。

表参道の名店、〈大坊珈琲店〉では、ほとんど会話がなかっと言う。だが、大坊さんの本を読むと、無言の連帯の中に、仄かな安心感があったという。

〈No.13〉も開店から1年経って、そういう場所になりつつある。

副店長のほりえさんはお客さんに細かい気配りをしていて、きりさんは粛々とみんなが食べる肉を焼いていた。

いい場所だなあ。

自分も、誰かの居場所をつくりたい、という気持ちが、店づくりの中である。

誰でもいてもいい、というこの場所は、横浜の楽園、なのかもしれない。