Chiaroscuro、キアスクーロというイタリアの言葉がある。美術では、絵の明暗を対比して、立体感を出す技術だ。AIの画像生成で美術用語を調べている際、印象に残っていて、覚えていた。
ジュンパ・ラヒリという、インド系アメリカ人女性が記した『べつの言葉で』という本を、盛夏に読んだ。ラヒリはイタリア語の響きの美しさに魅了され、ニューヨークからローマへ移り住む。少しずつ、イタリア語を覚えていく過程が心理的推移と共に描かれている。
この書物にも、キアスクーロという言葉が出てきた。ただし、美術用語ではなくて、本来の意味である『薄明かり』にあたる言葉として書かれていた。
言葉の響きの美しさについて、気に留めたことがなかった。だが薄明かりという意味を知ったとき、キアスクーロと口にして、この言葉の美しさに気づいいた。
富士見町の午後5時。いつも通り、アンビエントのような町内放送が流れる。疲れをとるために、佐野町の〈のぼり雲〉へサウナに入ることにした。
玄関を出た時、眺めに息を呑んだ。沈む太陽が中縹色とオレンジの淡いグラデーションを生み出して、山の木々に影をつくっている。上空には、白い月が小さく浮かんでいた。キアスクーロ、と呟いた。

目標は定まっているが、先の見えない、真っ暗な道を、薄明かりを頼りに進んできた。ようやく店を始めて3ヶ月。まだ形になってないところも多く、一気に進めることができない。
それでも、多くの人の協力を得て、ここまで来ることができた。光が束なり、大きな灯になろうとしている。
薄明かりを頼りに

日曜日。前日の夜に〈No.13〉で珈琲豆のカッピングの撮影が終わり、帰ってきたのが12時だった。そこから文章を書き上げて寝る。
朝6時半に起床。当日の仕込みの作業と掃除を始める。一晩、スパイスや八朔に漬け込んだ鶏肉を焼き上げたり、バナナの天ぷらに揚げた。
朝9時半から野口さんとアルパカさんが来て撮影する予定だったが、アルパカさんが急遽こられず。野口さんと私だけの撮影になった。
私と野口さんだけで撮影するのは初めてだった。スパイスカレーと珈琲を食べてもらい、コメントを頂いた。
今週の珈琲豆は、共同購入したドミニカ。1週間ほど中煎りの練習をしたが、酸味を抑えることができず、いつもの中深の焼き方にした。
だが、私のいままでの焙煎の感覚だと珈琲豆の個を出しきれていない。この豆は強烈な個を持っていて、焼きながらそれに気づかせてくれた。
その戸惑いを、野口さんにも「いいですが、味が抜けてますね」と言い当てられた。
だが、修正方法は判明している。火を落とさず、なるべく短時間で焙煎すること。手癖で、アイドリングのように弱火でじっくり焼く時間を作っていたのだが、どうもその時に香りが抜けているようだった。
11時30分に撮影完了。スパイスカレーの写真を野口さんとアルパカさんにツイートしてもらった。
営業開始。この日はいつもより来客が多く、スパイスカレーも珈琲も売り切れてしまった。少ない来客数に合わせてあまり仕込んでなかっただけなのだが、嬉しかった。〈エデン横浜〉で知り合った高橋さんも、遠くからわざわざ来てくれた。
お客さんがあまり来られなかったので、仕込んだとしてもほほ自分で食べていた。それでも悪くなってしまったので、泣く泣く廃棄したこともあった。時間をやりくりしてやっとできたものなので、捨てなければいけない時、とても悲しかった。
今週は、新規のお客さんが2組来られた。どちらも近所の方で、このブログを読んで頂いて来店してくださった。
その内の1組のご夫婦が、石油ストーブを貸して頂くことになった。お2人とも話し方が丁寧で、優しく、物腰に聡明さが滲み出ていた。
最後に来客した常連さんにスパイスカレーを出せず、珈琲も〈No.13〉の豆を使わせてもらった。その後にスターブを店まで運んで頂いた。
たくさんの人の厚意に支えて頂いて、ここまで来れている。どこか自分には感謝が足りてないように感じた。このご厚意に応えるよう、店づくりに励んでいく。
「ここで1人で住んでいて、寂しくないですか?」と問われた。仲間ができたので、寂しくないです、とその時の本心で答えた。
でも、後で振り返ると、寂しさはあったな、と思う。やらなければいけないことで心を埋めてきたけど、冬の帰り道にふと感じたことがある。だから、みんなの存在と協力が、ものすごくありがたいのだと思う。
サウナ

水曜日。派遣の面談。追浜のマクドナルドへ行く。条件が合わなかったが、後で電話で断った。別口で久里浜のニコンの工事に応募したが、受け入れが2月以降になるらしく、断らせてもらった。
売上で、店用のしょっつると、ガラスの呼び鈴を買う。しょっつるは鰰で作られた秋田の魚醤で、高くて買えなかったが、売上で買うことができた。大切な売上なので、有用に使わなければいけない。
年末年始のバイトもいくつか応募の作業をして、横須賀へ帰る。サウナで疲れを抜いた。頭がすっきりした。
〈魚幸〉で鯖を買う。一切れ300円だった。脂が乗ってうまい。コリアンダーパウダーをほのかにかけて焼いた。
夜、野口さんと共同購入したコスタリカを焙煎。焼いていて、まるでハーブティーのような香りがする。これはすごい豆だ。小粒だが火が通りにくい。