湘南移住記 第208話『健康』

日曜日の朝は、よく店の窓から富士見町を眺めている。今日はやけに烏の声がよく響いていた。朝の冷気が体に染み込んで、やがて、陽の光が店の中に差し込んできた。さっき焙煎した珈琲を飲んでいる。衣笠のリサイクル店で見つけた備前焼に似たカップに1杯半の分量を淹れる。

陽光が長方形に影を削って、店の中を暖めてる。頭の中を真っ白にして、光の変遷を感じ取っていた。あれやこれや考えるより、1時間くらいぼおっとしておこうと思った。開店の準備が済んだ、朝の9時半。

空気が一段と冷え込む。

喜び


お客さんに寒い思いをさせるのは心苦しく、今週は15:00までの短縮営業とさせてもらった。

12月に入り、3週連続で新規のお客さんが来てくれる流れがあった。〈エデン横浜〉や〈No.13〉で知り合った方、横須賀の同業者の方が紹介してきてくれた方。

どうも、ちょっとずつ店の存在が広まっているらしい。

少ないお客さんだけれども、お一人お一人の来店がとても嬉しく、コミュニケーションが濃密だった。

店を開いて3ヶ月。平日は働き、土日に店をオープンするのに精一杯で、集客や、できていないことが多かった。

〈hatis AO〉は、津山の〈hatis 360°〉を開いたときより10倍は険しい道のりだった。あの時は内装をしてくれるつばさくんがいて、お金もなかったけど、人伝いに必要なものが集まり、不思議なほどオープンまですんなりと漕ぎ着けることができた。

今回は本当にオープンできるのか、というくらい、細い糸の綱渡り。改装をほとんど1人やったのは、お前甘えんなよという神様からの采配だったのだろう。

2年間の喜怒哀楽も含めて、来客がとても嬉しい。

フィードバックや提案をもらったり、感想やメッセージを伝えてもらって、嬉しさが溢れ出る。11月はボウズの日も出てしまったけれど、1営業1営業が特別な感じがする。

津山店で、一時期は売上のことばかり考えていたのが嘘かのよう。

商売としてそれはそうなんだけど、それ以前に自分の店に人が訪れること自体か奇跡のようなものだ。

その認識を改めることができて良かった。

変化


相続問題の原因になった親族に感謝の念が芽生え始めた。憎しみと言っても差し支えがないほど怒りを抱いていたけれど、こういう得難い経験をさせてもらっている。

同時に、その人に同情も抱くようになった。人間、ああはなるまいと考えていたけど、いま考えると、まともに人生を過ごしてはいなかったのだなと思う。行動や振る舞いにその人の生き方が現れていた。

お客さんが来てくれる喜びも、労苦も、それによって出来る感謝も、おそらくないのだろう。

とはいえ、私も私で、普通のやり方ではないし、体に負担もかかっている。

日曜日の夜、心臓が痛くなった。私は生まれつきの不整脈を持っていて、過度にストレスが溜まるとこの症状が出るようだった。

過去に2回、記憶がある。1度目は受験のときと、2度目はまさに2年前、相続問題がピークの時、毎晩のように動悸が止まらなかった。

このブログを読んでくださる方が増えて、中には読んで店に訪れてくれる方がいる。ネガティブなことをお伝えしたくはないのだけれど。

これをいい方に解釈したい。2023年、1年かけて店に1本化するために、いい条件の派遣を見つけて貯蓄と改装をする計画だった。

だけれども、思った以上に負荷がかかっているので、湯郷の先輩に言われたように、3ヶ月で達成するつもりでやる。

なので、集客をまず第一に考える。この思考になった方がワンクッション置いていないので、健全に感じる。

Wi-Fiとウーバーイーツを申し込んだ。珈琲やスパイスの物販のアイデアも具現化できそうで、やることをやっていけば、必ず利益が出る。お客さんにも仲間にも恵まれているので、その自信がある。

去年の今頃も鎌倉に通いながら改装をし始めた時期で、胃の調子を壊していた。来年は自分の体に向き合って事を進めていく必要がある。集客ができて、余裕ができ始めれば休みもとれて、週7のサイクルから脱出できる。

根性を出しどころなんだけど、それを知恵に変えて、やり方を工夫する。

〈エデン横浜〉のTwitterに、「お前は一生懸命生きているフリをしてるだけ」と黒板に書かれた画像を見て、ショックを受けた。

たしかに、いままでも大変なつもりだったけど、まだ出来ることもあった。いまもそうだし。

この3ヶ月、前の店で言うと2週間分の営業。だけどスパイスカレーに関しては、前の店の3ヶ月分に当たる成長があった。

珈琲の焙煎は迷走を極めた。深煎りをやろうとして、うまくいかなかった。ただコンロの改善が出来て、逆に浅煎りがうまくいきそうな気配がある。

いままで真剣に生きてきたのかなあ。野口さんやSCAJに出会って、自分に問わざるを得ないこの3ヶ月でもあった。

自分の体のためにも、1日1日を大切にして、前に進もう。