12月5日、月曜日。2日前から寒くなり始め、今日はさらに一段と寒くなった。ベタ塗りされたような曇天が、師走の到来を告げる。冬だ。
年末年始の仕事を求めて横浜まで出向くことになった。今の仕事は12月21日まである。12月はもう1週間あるし、稼働しておかないともったいない。
先週の営業中、店内が寒かった。暖房設備が必要となる。
薪ストーブを設置するつもりだったが、富士見町は密接な住宅街なのでご近所に迷惑がかかる可能性がある。常連さんにオイルストーブを勧められて、薪ストーブは辞めて、そちらにすることにした。
寒い中、お客さんに店内で過ごしてもらうのは心苦しい。はやくオイルストーブ代も捻出しないといけない。
横浜に着いて仕事の面談をする。終了後、すぐに横須賀には帰らず、ある場所を訪ねた。
横浜にあるエデン

昨日、Twitterで〈No.13〉の野口さんが珈琲についてのアドバイスをしているのを見つけた。
野口さんは、埼玉にある〈珈琲おりえ〉さんに珈琲カクテルについてのアドバイスをしていた。
〈珈琲おりえ〉さんのアカウントを見てみると、珈琲カクテルに取り組まれているようだった。ひとつのツイートが目についた。「浅煎りのエチオピアに塩を合わせたら美味しい」と。
この発想に驚いた。香りがいい浅煎りの珈琲に塩を合わせる、なんて思いつきもしない。そんなことがあるのか。
埼玉まで遠いが、このお店に行ってみたい。浅煎りの塩がどうしても飲んでみたい。興味が噴泉のように湧いてくる。
すると、ちょうど今日、〈あいまいなコーヒー研究所〉というタイトルで横浜に出張するということだった。私もその日横浜に出向く。この偶然は天啓だ。なにがなんでも行くことにした。
エデン横浜はGoogleマップでは表示されなかった。横浜駅から歩いて30分ほど。夕方から薄い散弾銃のように雨が降ってきた。止んだタイミングを見計らってエデン横浜を目指す。
藤枝橋を渡って、南浅間町へ。横浜の住宅街。都会的な家々に長らく住んだ神戸を思い出したが、すこし違う。横浜は道幅が広い。神戸はもっと密集している。東京はさらに密度が濃い。
日が暮れた横浜の見知らぬ住宅街。道が雨で濡れている。交差点で信号待ちをしていると、大量の車のフロントライトの群れが押し寄せてくる。青信号が灯って渡ろうとすると、救急車が通りかかって道路の真ん中で通り過ぎるのを待った。こんなことは初めてだった。
都会の方が、田舎より昭和が残っている。住宅の連なりの中に、生活雑貨の個人商店があった。家の倉庫なのかお店なのか判別がつきにくい。乱雑な商品棚がとても愛おしい。

エデン横浜に着いた。オープンまで30分ほどあった。周辺を探索することにした。
クセの角度
浅間町は、スナックやミュージックパブが並ぶ歓楽街のようだった。ただ、空き店舗も多く、裏寂れている。
個性的な看板がやけに目についた。



エデン横浜は、二階建てのビルにあった。いくつか店がある。その内のひとつが〈イリオス三姉妹〉だった。クセの角度が独特だ。神話からとっているのだろうか。
左脇にある階段を登って、右の扉がエデン横浜。

扉を開けると、カウンター席の前に男性と女性が1人ずつ座っていた。男性がエデン横浜のオーナーさんで、女性が〈珈琲おりえ〉さんだった。
オーナーさんに、関西訛りを指摘された。意識せずに話していたが、自分の言葉に神戸が残っていて、妙に嬉しかった。オーナーさんも同じく関西出身で、同世代の蟹座だった。
席に案内してもらって、Twitterで見た塩珈琲を頼んだ。ライムが必要とのことだったが、レモンで代用してもらう。
カクテルグラスに供される。スノウ・スタイルで、ガラスの縁に雪のように塩が施されてあった。
飲んでみると、美味しい。合っている。珈琲の酸味を塩が洗い流してくれるようだった。ウォッカもすこし入っていたが、なくても美味しいだろうなと思った。
その後、カウンターでフライパンによる焙煎がはじまり、お客さん何人かと談笑して楽しんだ。豆はパプアニューギニアのシグリ農園。ハゼが起きる前に、オレンジを思わせる柑橘系の香りが席に立ち込める。
普通に生きていると、珈琲の焙煎に立ち会うことはあまりない。焼きたての香りが、他の皆さんの精神にいい作用を及ぼしているのが感じ取れた。
エデン横浜はとても心温まる空間だった。お客さんもみんないい方達だった。なんか久々にほっとしたなあ。珈琲がまたひとつ、縁をつないでくれた。たしかにここは、横浜の楽園かもね。