友達のコーキは、横須賀を絵にしたときに、海と空を描いた。私も横須賀の印象を問われると海と空と答える。
コーキと2人で仕事帰り、三春町を車で走っていた。ラーメン屋、パン屋、小泉さんの家、自転車屋が並ぶ。
フロントガラスの向こうに映る夕空が美しくて、2人で横須賀に来てよかったなあと同じ言葉を口にした。
海と空と
空は空で、一つしかない。だが、街によって空の色は違う。私の故郷、岡山県津山市の夕空は幻想がかっていて、まるで違う世界の中にいるかのような感覚に陥る。夢の瘴気が強い。城見橋からみる夕空は、トリップ映像に近い。
横須賀は津山と比べて山が近い。街の作りも独特だし、津山のような壮大さはないものの、自然との距離が近くて、レンズがより手前にある。
クレヨンで描いたように空が鮮やかだ。
雲と雲の間の色彩がより鮮明に映る。
横須賀で私が好きな場所のひとつ、うみかぜ公園。富士見町から歩いて15分ほど。スーパーが3つ並んでいるので、買い物ついでに散歩にもよくくる。
私が神奈川県に移り、横須賀で初めて働いたのもうみかぜ公園の近くだった。奇しくものちに住むことになる県立大学駅に集合だった。当時はきたばかりで右も左もわからず、不安だらけだった。

安浦町のモスバーガー前にある公園で気を落ち着かせた。そのまま日の出町のローソンまで行って、夜食とひげそりを買ったのを覚えている。髭を剃って、別の求人に応募した。
本屋の在庫を機械でチェックするという夜勤だった。派遣なので冷たくされるのかと覚悟していったが、髪を染めた派遣社員のおっちゃんが優しく教えてくれた。朝8時まで働いて、リビング横須賀裏手にある島を見た。それが初めてのうみかぜ公園だった。やや霧がかかっていて、誰もいない。
塹壕の跡が残っていて、横須賀らしいなと感じた。
いまは、朝8時にリビング横須賀で昼食を買う生活なので、朝8時にうみかぜ公園に行くのが運命らしい。
らしく
東京の八王子に住んでいるレイト君一家が横須賀にきてくれたとき。うみかぜ公園に連れていった。ゴールデンウィークで、グランピングしている人たちがたくさんいる。日本人、アメリカ人、人種、年齢層問わず。音楽もあちこちから聴こえてくる。
「みんな、わきまえて、各々楽しんでますね。」
レイト君がうみかぜ公園の様子を見てふとつぶやいた。
その一言が、横須賀をすごく現しているな、と思った。
横須賀は、個性を尊重して、各々のペースで暮らすことをとても重視している。街中にもなかなかパンチのきいた人が多いが、周りは気にも留めない。むしろ歓迎さえしている。

私の故郷の津山は逆。悪目立ちすると叩かれているので、個性強い人が多いが、みんな息をひそめるように暮らしている。
すこし角度は違うが、神戸もマイペースな街なので、どちらかというと横須賀寄り。港町は人の出入りが多いので、そういう気質になるのかもしれない。
近くのセブンで珈琲を買って、なんとはなしにうみかぜ公園のベンチに座って猿島を眺める。
バスケコートがあり、バスケを楽しむ人々。スケボーを楽しむ人々。BMXを練習する子どもたち。釣りに向き合う人たち。グランピングやBBQを楽しむ人たち。
みんな各々、交わることもなく、好き勝手にやっている。ジャズ喫茶のカウンター席もそうなのだが、この距離感がいいのだ。
横須賀に越してきた当初は寂しかったが、独特の距離感の取り方がわかると、馴染めたような気がした。
いつ頃からか儀式のような習慣になっている。海と、空。横須賀のとても好きなところ。