〈hatis AO〉の物件を内見したとき、あるひとつのことに気づいた。既に古民家を改装した跡がある。いくつかの断熱材や資材が散らばっていた。
大家さんに聞くと、東京から何人かが横須賀のこの物件借りて、週末DIYに来ていたらしい。
いま、客間としてつかっている部屋には青い珪藻土が塗られている。青は私の好きな色。津山でやっていたhatis 360°も、白と青を基調にしていた。
この珪藻土の青から、店名を〈hatis AO〉と名付けた。
疑問

玄関先の引き戸やガスのメーターにも青く塗ってあることに気づいた。青を基調にしたかったのだと。
でも、なんで青色だったのだろう。家の外壁は白だったり朱色だったりで、家の中は茶色が多い。青のかけらもない。
また、どういう想いで、どんな人が、なんのためにここを改装していたのか。
ヒントは、ポストにあった。
敷地内に門があり、その左側に銀色のポストがある。ポストには、〈icoi BASE〉と書かれていた。郵便物の中に、ガスや水道の案内の手紙が残っていて、こちらも同じく〈icoi BASE〉として住所が登録されていた。
どうもここは、〈icoi BASE〉という名前の場所にするつもりだったらしい。
2021年11月。元icoi BASEのこの場所と契約し、三浦から横須賀に越して、改装を始めた。
作業は途中で終わっていた。縁側はフローリングらしきものを外して薄い板一枚、床が抜けている部屋もある。とにかくボロボロの状態。
受け継ぎ

残留物を片付けからはじまり、1人での作業。また、よこすか海岸通りにあるホームズの往復の日々が始まった。
あまり経験のないDIYを1人で始めた。前の店でつばさくんがやっていた作業を思い出しながら。床板の貼り付け。縁側を残っていた古材で敷き詰める。ベンチがあったので、その前にテーブルを作った。つかっていない戸を利用して、もうひとつテーブルをつくる。化粧板に白いペンキを塗る。
体当たりで作業をした。前の店ではつばさくんに頼りっきりだった。つばさくんの偉大さを思い知った。
働いてお金を貯めて、資材費にする。平日は仕事。休日に改装。
冬。鎌倉に通いながらある程度完成。
春。アンティークの照明を〈From The morning〉さんに譲ってもらったり、レコード棚ができる。この頃から疲労の蓄積と尿道結石があり、底の日々。5月には、どうなるんだろうと考えていた。
夏。横須賀で働き始め、多くの仲間を得る。希望が見え始めたころ。
秋。9月、プレオープン。まだまだなのだが、無理矢理にも開けた。
ここに来て、一年経った。もはや1人ではなくなって、いくつかの作業をみんなにしてもらった。庭の草刈り、台所の片付け、店の看板の製作、縁側のやり直し。店に飾る絵も描いてもらった。
いままでより加速度的によくなり始めた。
プレオープンしたあたりから、あることが気になり始めた。
この壁は、なぜ青くしたのだろう?
どのような想いで、ここをつくっていたのだろう?
店が形になるにつれ、そのような疑問が募る。
連絡がとれる

ある日、気になってInstagramの投稿で〈icoi BASE〉さんについて尋ねてみた。すると、〈No.13〉の野口さんのアカウントに、フォロワーとしていたようで、DMで教えてもらった。
〈icoi BASE〉さんのアカウントには、いくつかの投稿があった。数人で進めていたプロジェクトとのこと。平日は東京で仕事をして、週末に横須賀に来ていたこと。最初は湘南の物件を探していたこと。
面白かったのは、作業を中断した時期と、私が岡山での店を閉めた時期が重なっていたということだった。奇妙な縁を感じた。
時系列として、私が店を閉めるのと〈icoi BASE〉さんが改装を止めたのが同時期。私がその半年後に三浦に来て、横須賀に移った。津山店を閉めてから横須賀までが1年あることに気づいた。
アカウントに、〈icoi BASE〉のみなさんが楽しく作業されている様子が残っている。古い家なのに、陽の気を感じたのは、その名残なのだろう。
ああ、このベンチはこんな様子でつくっていたのか。あの和室で寝泊まりしていたのか。客間の化粧板を貼るのも、一大事だよなあ。
自分もやってみて、改装の大変さ、やり遂げとた時の嬉しさ、なにより楽しさが共感できるものばかりだった。
青を基調にしたのは、横須賀の海から感じとったもの、ということもわかった。明言はされてないが、投稿から推察されることだった。
〈icoi BASE〉さんと連絡をとったところ、返信がきた。店にみなさんで来てくださるということだった。
いろいろ訊いてみたいことがある。受け継げふところは受け継ぎたいので、今から会うのが楽しみだ。