湘南移住記 第171話 『夜の紅茶』

夜の紅茶。21時27分。急須にディンブラを淹れる。中国茶のカップにココナッツオイルを添えて、紅茶をそそぐ。私の気に入っている飲み方。

ココナッツの香りがする紅茶を飲みながら、キース・ハドソンのダブアルバムを聴く。外は雨が降っている。

4年前、神戸で最後に住んだのはやはり王子公園だった。都賀川のちかく、天城通りにあった木造のアパート。広い部屋で、朝は珈琲を淹れてリー・ペリーを聴くのが習慣だった。雨の日にダブを聴きたくなるのはなぜだろう。

膀胱

木曜日。あいかわらず膀胱が痛い。が、昨日、穴を開けたので仕事に出る。

駅まで歩いている途中、なにやら世界が新しくなったように感じた。昨日、余計な過去は忘れると決めたからだろうか。想いひとつで世界は変わるものだ。

いつも県立大学駅に7:25の上り線に乗っていたのだが、一本遅い便に出かけてみた。おとつい、腹痛で金沢八景で降りトイレに行ったのだが、一本遅い線は社内が空いていた。

毎日、満員電車に巻き込まれると精神が削られる。みんな沈んだ顔でスマホを見ている。

満員電車を避けて、一本遅せれば、そんな風景を見ずに済むと考えたが、そんなことはなかった。一本後の電車も、いつもの膨張率だった。

だが、一本遅れると乗客の顔ぶれが違う。出勤者だけではなく、若者や学生がたくさんいた。めずらしく席に座れたが、隣が若い男女のカップルだった。沈黙が佇む朝の電車の中、2人の会話が弾む。黙ったままよりはいいかもしれない。

次は横須賀市内で仕事を探している。店を開きながら出来る仕事。隣の堀之内で求人があったので、応募した。近くていい。

職場に着いた瞬間から膀胱が痛んだ。上司的な人から帰る?と気を遣ってもらったが、忙しかったので働くことにした。忙しさの波が止めば帰ろうと考えたが、結局最後までいた。

同じ派遣元で、休憩時間によく話す綾野号(仮称)さんと初めて隣の席になった。綾野号さんとは年が一回り離れているが、フランクに接してくれる。

綾野号さんはヒップホップが好きで、話がよくあった。リアルさんぴんキャンプ世代らしい。Muroのミックステープをよく集めてると聴いた。

Greedy、という名前の、東京のラッパーのことを教えてくれた、

休憩時間、吹奏楽のリハをしているのを見る。

体調が悪いので、焙煎はやめておいた。コンディションがよくないといい豆は焼けない。〈Light Up Coffee〉の余韻がまだ残っている。ああいう、華やかだけど優しい珈琲が煎れたらなあ。

原因はわからないが、鋳物コンロの火力が上がっていた。火力を上げて、水抜きの時間を早めれば、もっと珈琲の華やかな香りを引き出せるかもしれない。

ウェアウルフ

『フランス名詩選』を読んでいる。文章の中に、詩のようにやわらかい表現をいれたくて勉強している。

イメージ的には、現実と説明の骨格をきっちり設計して、中に詩的表現の綿を詰める。

パッ、と文字の連なりを見て、読む前に理解してもらえるようになる。

アプリでファイナルファンタジー5を遊んでいる。おもしろい。ドットの世界に入り込む。想像の余地が広く、没入できる。

火のクリスタルが破壊され、カルナック城脱出シークエンスのところまで来た。次々に事件が起き、そのスパンが早い。

ガラフという記憶喪失の登場人物がいて、彼の過去の仲間らしきウェアウルフ(狼?)と遭遇するが、思い出せないという一幕があった。

このウェアウルフは、狼の頭をしているが、二足歩行で、人間の言葉が通じ、コミュニケーションがとれるようだった。

もし仮に自分が記憶喪失になって、狼と知り合いらしい、とわかったらどんな気持ちになるのか。怖いだろう。

城では、ウェアウルフが来て危ないと爆薬で追い払われていた。追い払った兵士は「あの狼、来るのは来るけど暴力は振るわない」とぼやいている。

ウェアウルフは、人間に危機を知らせに来ていたようで、その気持ちを無碍に追い払われ、ガラフをかばって亡くなった。

物凄い悲しい出来事ではなかろうか。

子供の時にこのゲームをプレイしたが、この悲劇について理解できていたかどうか。