ある時、仕事で知り合った老年のソムリエに、「Tsukikoya Coffeeは行きましたか?」と聞かれた。情報収集が上手い女将も、ツキコヤさんの名前を挙げていた。
横浜にある販売所は行けたが、追浜にあるカフェは金土日祝しかオープンしてないため、行けなかった。週末に仕事があったため。だが、土曜日が休みだったので、自転車にまたがって出かけた。
追浜の風景
富士見町から逸見へ出て、トンネルをいくつもくぐり、追浜へ向かった。横須賀にはかつて複数の自動車メーカーがあったらしいが、不況も手伝い、撤退してしまった。だが追浜には日産の工事が残っており、今も労働者の街なのだと思う。
田浦から追浜にかけて、昔ながらの長い商店街がつづく。横須賀は古き良き商店街がたくさんある。人通りも多い。素晴らしい。富士見町から自転車で15分のところにある衣笠商店街も、賑わいがあって好きな場所だ。神戸で長らく住んだ水道筋商店街を思い出す。
到着

かなり入り組んだ道、山の途中にTsukikoya Coffee Roasterはあった。空が澄んでいて、海がみえた。爽快な気持ちよさだった。
古民家を改修したカフェのようだった。日本旅館のような佇まい。門構や設も素晴らしかった。

中に入ると、男性の店員さんに予約されていますか?と問われた。いえ、してないです。と応えると、大丈夫です。お入りくださいと笑顔で迎えてくれた。イケメンだがかなり明るい人だった。他のお客さんともよく笑っていた。
メニューは、フードも充実していたが、珈琲を頼むことにした。4種類の豆から選ぶ。コロンビアのアナエロビックを注文した。
窓側の席に座る。店内はクリスマスツリーが飾られている。いま私も古民家を改装しているので、店内の作りを参考にした。席ごとに椅子やソファーが違い、装飾品も変えてある。

しばらくして、イケメンの店員さんが珈琲を運んできてくれた。サーブの仕方が、ソムリエのようで格好よかった。

葡萄のような酸味。
こころが優しくなる珈琲。
珈琲を一口啜る。美味い。自然と口に出ていた言葉だった。
このお店が名を轟かせているのは、オーナーであり焙煎士でもある田村英治さんの力が大きいだろう。Qグレーダー保持者で、Roast Masters Championshipでの優勝経験もある。世界基準の珈琲が飲めるということ。
国際的なコネクションがあることから、珈琲豆も農園から直接仕入れているという。
神保町〈Glitch〉の焙煎は尖った美味しさだが、〈Tsukikoya〉の焙煎は優しい美味しさだった。アナエロビックはどうしても鮮烈になってしまうが、珈琲本来のコクも残し、バランスが良かった。
庭を見ながら珈琲を飲んだ。ふと自分の人生を振り返る。うまくいかないことも多かったがまあいいんじゃないか、とお店と珈琲に肯定してもらった気がした。美味しい珈琲と素晴らしい空間には、そんな力がある。
