湘南移住記 第九十五話 「終焉」

女将と別れ話になった。やわらかいプリンのように、まだ繊細の話で、女将もこういうことを書かれると嫌かもしれない。だが、文章にしないと自分の迷いが晴れない。書ける範囲で、書いていく。

女将もこの記事を見ているかもしれない。これは言いたいのは、俺は、いい方向に向かわせたい。ただそれが、どの着地点なのかが、わからない。最終は、俺がちなっちゃんをどれだけ信じるかになってくると思う。

なぜこうなったのか

原因はひとつ、私の弱さがある。女将が神奈川に来ないのは、私への気持ちが薄れてしまって、来ないのではないか。愛情はたゆとうものだし、それでもいいから、気が変わったのなら正直に話して欲しい、とは言っていた。それでも女将は違うと言う。

神奈川に来れないのは自分で決めたいから、という。俺に言われて行くのでは自分で意志を選んだことにはならない。自分が行くって決めて、そのタイミングになったら神奈川に移住する。

付き合って約2年。一緒に生活を始めて、1番もめたのはお金のことだった。自立できていないんじゃないかと言ってきた。私もコロナで余裕がない。店が稼げないから、2人で安定して生活するのなら、私が店を閉めなければいけない。

もしかしたら、私の都合のいいように書いているかもしれない。あくまで私の視点から、ということです。客観的に綴ります。

これから子供もできて結婚もするだろうし、私も女将もそのつもりでいた。私より、女将の方がしてがっていた。私は、では具体的に結婚して生活できるために、あちらで稼げるような店にしなくてはならない。そのための準備でお金が必要で、この1年弱働いていた。それが今の私の商売の実力だった。

離れて暮らして行くうち、疑問符が湧いてきた。もしかして、女将は今の生活が維持したいから移ってこないのではないかと。それは自分の弱さだった。そのことで女将に何度もぶつけた。

こちらに帰ってひさしぶりにひとつ屋根の下に住んで、なにかズレ続けていた。お互いにそう感じていた。

考えあぐね、ちょっとこれはもう厳しいんじゃないか、と考えた。

審査落ち

ある日の昼、横須賀の物件の審査に落ちた連絡が来た。大家さんに連絡すると、敷金を3ヶ月納めてくれたらオーケーという。要するに不動産会社をかまさず直接契約するということ。3ヶ月分でも、13万5,000円。しかも敷金なので、これから契約上なにもなければ戻ってくる。

ここまで、話がスムーズに行かなかった。三浦の物件から数えるとこれで4件目、数々の障壁があった。だが、今度こそは行けるかもしれない。

こちらの生活でも、東京圏のトップロースターたちの珈琲を飲めたこと。仕事で思うことがあったこと。新しいモノや景色を見れたこと。得るモノは相当大きかった。私は、神奈川での挑戦をつづけたい。

女将に報告すると、スムーズに行ってなさすぎる。立て直したほうがいいんじゃないかと答えた。その答えに、あ、やっぱ女将は出たくないんやなと勘繰ってしまった。

ぶつけてしまう

その日の晩、女将がバイトから帰ってきたタイミングで、別れ話を切り出そうと思った。だが、いつも帰る時間に帰って来なかった。仕方ないので、私はhatisにいた。もう一度家に帰ると車がなかった。どこかに行ったらしい。

ふたたびhatisに戻って、また家に帰ると、明かりをつける様子が見れた。車はないが、女将がいる。

家に入ると女将がいた。椅子に促したが、女将は座らなかった。そして、私から別れ話を切り出す前に、女将が別々の道を行ったほうがいい、という表現で提案してきた。

女将は車で実家まで帰って、ご両親にここまで送ってもらったらしい。面と向かって話すのは苦手なので、今夜は実家に帰り、文章に書いて送ると言った。たしかに女将は話すより文章が得意だ。承諾して、その日は別々に寝た。

手紙

独りになり、孤独感が襲ってきた。1年間ずっと暮らしてきた残り香が、辛くなった。事情を知らない猫たちが呑気に鳴いている。いや、こいつらが1番わかってるのかもしれないな。

私も手紙を書くことにした。怒りや疑念に囚われて、別れようと考えだったのに、手紙を書いてるうち涙が溢れてきた。その時、女将への気持ちの大きさに気づき、驚いた。自分にこんなにも愛情があったとはわからなかった。もう、神奈川に来なくていいから、とまで想った。

翌日。本来なら帰る予定だったが、まだすこし津山にいることにした。大家さんにも、返答は先にしてもらっている。女将と話し合わなければならない。

私は、女将とこれからも一緒にいると決めた。そうすると心がラクになった。どう説得するか。考えていた。

その日の晩、19:30に家で話し合う予定。それまでずっと考えていた。他の物件も見て、なにか違う可能性はないか模索した。

会う前にメールが来た。そのメールからは、女将が、行けなかった理由が書かれてあった。申し訳なさも伝わってきた。女将は頑固だ。自分が納得できれば動かない。それが、この人の芯なのだろう。

リビングのテーブルに、アルネで買ったロウソクを灯して、話し合った。ロウソクを灯すと、穏やかに話されると何かで見たからだ。思っていたより金箔がはなかった。最初からおどけていた。住んでから、ケンカしても翌日にはこんな調子。

自分に正直になる、向き合う

私は自分の気持ちを話した。いままで話してなかったことも話した。付き合う前から一貫して同じ。女将と向き合う。ずっと続けていたこと。これからも一緒に生活しよう、と。

女将の反応は、すこしドライに感じた。それもあって、どうするかは、女将に委ねることにした。すると、女将は津山で事業を始めたいと言い出した。

自分で稼いで、その上で神奈川と津山の多拠点生活をしたいと。自分が独立すれば、動きやすい。ビジネスのアイディアもよかったので、そうしようかとなった。

そのあと、田町の8731hanamichiさんにアヒージョをつつきながら、これからの話をした。

そして寝ようとした頃。これでいいのか、と疑念が頭をよぎる。結局、体良く利用されてるだけじゃないのか。結婚もお互いの事業が軌道にのり、そこからにしようと言った。だから来年1年は、別々で頑張ろうと。

めちゃくちゃだ、と考えていたけど、こう書くと、女将が計画だてをしたんだな、とわかる。愛情を越えて現実面のお金の話で、その堀を先に埋めようとしている。

そうか。

もう、一緒に暮らしたくないのかな。そうおもってしまっていた。ほんの2、3週間前に、ずっと一緒じゃ、とメールでやりとりをしたばかりだったのに。

今夜、丹後山アパートメントにいくことにした。私の中で答えが出ない。神奈川に帰って横須賀で仕事を決め、お金を作りたいところだが、焦らず、もう少しまちます。きちんと見定めるため。