湘南移住記 第九十五話 「木村屋のシュークリーム」

小田中の安国寺さんには祖父、祖母、父が眠っている。朝イチ、横須賀に行く報告に向かうことにした。

序でに、松本米穀店へお米を仕入に。このお店には大垪和西の棚田米が置いてある。hatisをしていた時、棚田米を玄米で使うことが多かった。棚田米は質が良く、美味しい。

理容

小田中まで歩いて行く。10月の津山はとても暑い。刺すような日光。三浦は幾分か涼しいのだが。横須賀で買い求めたストライプのロングシャツだと、汗ばむくらいだ。

途中、散髪屋さんがあり、髪を切った。安価でカットも顔剃もしてくれる。いつも駅前の散髪屋で、キクさんという人に切ってもらうのだが、昨日入ったら一杯だった。今日はここで切ることにした。

理容はいい。顔剃をしてくれるから。顔剃は気持ちがよくて、うとうと寝てしまいそうになる。一時期、自分でもやってみたくて道具を買い揃えようとしたが、面倒くさくなってやめた。

店内には3人の店員がいて、そのうちキャリア感のある女性に切ってもらった。Pinterestで髪型をブックマークしておき、店員さんに見せると大概その通りに切ってくれる。こういうお店の方がベテランが多いので、技術は確かだ。サイドだけ刈ってもらう髪型にした。津山の街中を見ていると、刈り上げている男性が多い。関東は少ない。センター分けが多いかな。

髪を切ってくれた女性が私の散髪のあと、店員同士の隠語で勢いよく店長らしき人に顔剃を依頼していた。店長も従業員に気を遣っているのだろう。顔剃をすると、自分の顔が若返ったように見えた。

この日は女将の態度にイライラしていた。件のいつくるか問題もあるし、久しぶりに生活するとズレがあったのだろうか。昨夜に女将が夜起きてずっと1階のリビングにいるのが気になって眠れなかったからだろうか。

ちょっとずつズレていってるような気がする。

髪を切り、万歩書店という古本屋に行き、ヘンプシードの本を買う。レジで2つのサイコロをふり、ゾロ目が出ると半額になるキャンペーンをやっていた。だが、元が50円なので、25円引きされるだけだ。ゾロ目が出なかったので、うまい棒を一本もらった。何味かは確認してないが、うまかった。

安国寺に墓参りし、松本米穀店で棚田米を買う。新米だったので、いつもよりキロあたりの価格が40円安かった。5キロ仕入れた。

店に行って片付けをする。店で使っている珈琲茶碗の金継ぎをしてもらった、ゆっこさんに普段のお礼に珈琲豆を渡すことにした。豆は中国雲南省・天空農園の嫌気性発酵のもの。焼いている時は味噌のような香りがする。トーストのような甘味が特徴。

物々交換

夕方4時くらいにゆっこさんが店に来た。旦那さんである哲学家・森内勇貴さんも来てくれた。森内さんは一本下駄を着用していた。普段は塾講師をしている。森内さんは津山を出る時、私への投資と言ってお金をだしてくれた。珈琲豆はお礼の一巻だった。

横須賀に行く近況報告する。ゆっこさんは金継ぎの教室をはじめ、森内さんはコロナ渦でリモートでプログラミングを教えているらしい。Donutsと絡めて何かできないか、と言って別れた。

例えば、神奈川で森内さんのリモート講義の生徒さんを紹介できれば恩返しになる。私も面白い。そういうつながりができれば。

珈琲豆のお礼に、東津山駅にある木村屋のお菓子を頂いた。森内さんが以前にも美味しいと行っていたお店だ。私と女将と、私の母の分まで頂いた。ワッフルが2つ、シュークリームが1つあって、どれがいい、と選択を促すと、母はシュークリームを選んだ。嬉しそうだった。

女将がいない夜

夜。南町の家に帰ると、休憩で戻ってきた女将と鉢合わせた。横須賀の物件の契約が長引いていたことを話すと、ふーんという反応だった。本当に来る気があるのだろうか。つい感情的になって、女将にぶつけてしまった。私はそのまま家を出て、店の掃除をした。夜11時半に家に戻ったが、女将はずっと帰ってこなかった。

心配になったが、携帯の充電器も財布を持っていった形跡があり、Instagramのストーリーに足跡がついていたので、どこかに泊まっていることはわかった。

待っていたが、途中で寝入ってしまった。その間に、随分と考えた。もう、これで終わりなのだろうか。自分の気持ちはどうなのだろう。いや、私が2人のこの先を考えて行動したとしても、女将がその気でなければ意味がない。では、これまでの行動は独り相撲だったのだろうか。虚しくなってしまった。

翌朝、女将は帰ってきた。いろいろはしょるが、食べた柿を私の腕にこすりつけてきたり、鼻クソを飛ばしてきて、ここ何日の悩みがすべて吹き飛んだ。女将は、私が深刻に悩んでいる時にこういうことをするタイミングがうまい。

はあ。いままで何回も危機はあったが、女将とは離れ難い何かがある。神奈川に来てくれるまで気長に待つしかないか。