湘南移住記 第九十四話 「福山」

津山に戻った。深夜バスは相変わらずきつい。5000円程度の3列シートにしたが、よく眠れなかった。カイジに出てくる地下労働のような、暗澹な気分になる。

いつもの通り、横浜スカイタワーの広場に集合。点呼を取り、バスに案内される。

22時発、翌6:30に岡山市着。そこからさらに1時間ほど津山線に揺られる。朝の電車は意外なほどサラリーマンが多い。岡山から津山まで通っているのだろうか。

朝8:00に津山着。久しぶりの津山は、なんだかスッキリしていた。こんな場所だったろうか。生まれ育った駅前周辺はやけに澄んでいた。三浦に住むことによって、感覚のフィルターが浄化されたのか。

南町の家に戻る。出勤前の女将が、朝ごはんをつくってくれていた。産まれて2週間のヴィルゴとミウシャと初対面した。目も見開いて、体も大きくなっている。動きがまだぎこちなくて、AIみたいだった。居場所は何回か移動して、今は女将の服がはいっているダンボール箱の中にいる。

朝食を食べ、少し寝て、中国銀行津山支店に行き、通帳の再発行の手続き。不動産の契約の審査に通帳が要るからだ。通帳の再発行には、印鑑が必要と言われ、アプリを薦められた。不動産屋さんに確認すると、一度アプリの画面で審査を通してくださいということだった。アプリの登録に、以前使っていた番号から変更しなければいけない。そのためにも印鑑が必要だったので、明日また来ることにした。システムが旧式すぎて嫌になる。

店を少しかたづける。母に挨拶した。

翌日。朝、中銀に行って用を済ます。その間に女将がお弁当をつくってくれた。

広島市に、嫌気性発酵の豆を取り扱っている店があると聞いた。2、3日ほど津山で店を開けようとして、嫌気性発酵豆の焙煎に取り組んでいる。参考に飲みに行くことにした。

真庭市の落合から、高梁市まで抜けて、広島へ。以前、尾道へ行ったときに使ったルートだ。

途中の川上町というエリアで、お弁当を食べた。

高梁川はとても澄んでいた。メダカが泳いでいた。女将がメダカを脅かして遊んでいるのを見ていた。

正直、女将が神奈川に来るのかどうかわからない。つまり、私との将来を踏み切れないでいる、ということになるだろう。約束も何度も反故にされた。

くるのかどうなのか、そこをはっきりさせたい。女将は揺らいでいるが、これ以上先延ばしにもされたくない。

お弁当はシャケ弁当だった。キャベツのごま油和えが美味しかった。

広島市は案外遠かった。福山で諦めた。女将が下道で行こうと提案して、運転に疲れたらしい。

〈コノクス〉というカフェに寄った。福山には〈nijiiro喫茶〉という名カフェがある。このカフェも凄くよかった。福山はカフェのアベレージが高いようだ。私はプリンパフェを頼んだ。手作りのプリンは固くてちょうどいい。クリームの下に隠れたキャラメルナッツが美味かった。

もうひとつ、気になっていた〈包愛珈琲〉に行った。大阪の〈台風飯店〉の系列の店だ。

私は杏仁サワーをのんだ。女将は鶏排を注文した。どちらもかなりうまかった。