湘南移住記 第八十三話 「カセットコンロ、逝く」

長雨。3時間くらい、降ったり止んだりしている。9月に入り、暑さも引いて、鈴虫の声が聴こえるようになってきた。6畳間に蚊取線香を焚きながら、Tobias WildenのアルバムをSpotifyでかけている。彼が住んでいる北ドイツのブレマーハーフェンの冬を思わせるような、響き渡るように静謐で、厳しさもあるピアノ。生活に寄り添った音楽。聴き入りながら、天井を眺めている。カセットコンロが、使えなくなった。

今朝、いつものように朝食をつくろうとすると、火がつかなかった。仕方なく京急ストアで朝イチに半額になるパンをふたつ食べた。スイートプールを買ったが、あまくておいしかった。

仕事が終わり、カセットコンロのことをすっかり忘れて、三崎のうらりで半額になったレバーの塊を買ったのだが、火がつかず、調理のしようがなくなった賄いを頂いたので、夕方までお腹が減らなかったが、夜にお腹がへってきた。仕方ないので、Amazonで中華コンロを購入した。届くまでどうしようか。

職場の方にマンデリンが飲みたい、と聞いたので、思い切って珈琲の道具と生豆を注文した。三崎の人たちに、自分を知ってもらうには、珈琲を飲んでもらうのが手っ取り早い。

夏の給料が今月末に入るので、手持ちが少ないが、投資だ。遅かれ早かれ必要になる。焙煎も早くやりたい。しかし、このタイミングでカセットコンロが壊れるとは。いや、中華コンロの方が火力がつよいし、啓示なのかもしれない。道は拓けている。

マンデリンのいいやつを2キロ買った。久しぶりに珈琲の生活がはじまる。

いま住んでいる家は居住用になるので、他の家でもいいことになる。隣の城山町によさそうな物件が出ていた。家賃も安い。でも引っ越し代が勿体無いかなあ。女将と相談してみようか。

毎日、珈琲を焙煎するサイクルをつくる。どうやって三崎の人たちに振る舞おうか。三崎の人たちでなくても、こちらの人々とつながるために。出店もいい。ゲリラ的にできたらおもし、いな。ああ、おなかがすいた。