音楽の旅⑦ 「表現」

水星逆光期間が終わる。思い出話に耽ったら、あれもこれもになってしまったので、自分の人生にとって、音楽表現はなにか。について書きます。

はじまりMPC

19歳。Pi:zで出会った蟹バケツシンドロームという先輩方と一緒になんかしたくて、MPCを買った。未踏さんに教えてもらい、センタープラザ西館にあったリードマンという店で、MPC1000とオーディオインターフェースを買った。10万円のローンを組んだ。未成年でもよく通ったものだった。

ローンを支払うため、伊川谷のコープデイズでレジのバイトをはじめた。

ラップをやりはじめる

21歳。蟹バケツシンドロームが空中解散になっていた頃。今度は、自分でなにか始めたくて、同じ学校のオコゼとぱちを誘ってグループを始めた。ラップをやり始めた。

私がヒップホップに出会って、神戸に出て、製作を始めたのは自然な流れだった。大学2回生のとき、この大学がいやで、もう一度受験し直そうかとしたが、辞めた。あれは、人生の分岐点だった。もし辞めていたらこのグループはしていない。いや、ラップ自体をしていなかったかもしれない。

学校を辞めたとしていたら、私の人生は順風満帆に行っていたのだろうか?私が選んだ道は苦しかったが、かけがえのない思い出ばかりだ。

音楽をお金にする

ビートは、当時作ってる人も少なかったので、いろんな人に渡すようになった。先輩の蟹バケツシンドロームも一緒にやれた。ダメレコから月刊ラップという、全国流通のCDの話がきたとき、採用してもらった。

恵比寿のウルトラヴァイブスのスタジオまでレコーディングしに行ったのを覚えてる。イントロを録るために、みんなと一緒にレコーディングブースに入った。吉祥寺で、麺を念仏のようにもむラーメン屋に小林さんと行った。

尼崎のスタジオにビートを20-30個置いてて、そのまま全部買い取ってもらったことがある(そのお金はスタジオの主に持ち逃げされたが)。そのご縁で、マイクアキラさんという、さんぴんCampにも出演した、四街道ネイチャーのラッパーと作品をつくった。客演で、自分のビートにBron-kやアイスバーンに乗ってもらったのは感動した。

東京方面の仕事もあり、神戸や岡山の仲間ともたくさん曲をつくった。アルバム製作の手伝いもした。

ひとつ後悔していることがある。一緒につくる人をきちんと選ぶこと。頼まれごとをほぼ引き受けていたので、あまり自分が好きになれないラッパーはお断りした方がよかった。友達伝いに知らない人にビートを頼まれて、あがってきたプリプロを聴いてうーん、となることもあった。

もちろん、この話を受けてよかった、という曲もあった。自分のビートとの相性もある。

もうビートを売ることはしないが、一緒にやるのなら、蟹バケツシンドロームのように、この人と曲をつくりたい、という人に限る。でないと芯の部分でブレる。それはやってはいけない。

ローカルなシーンでも、音楽をお金にして、うまくいくとそれだけで生活している人もいた。私は最初からこれで食おう、というのはなかった。曲を作ることがただただ楽しい。

この前、音楽の友達と話して、メジャーに行けば行くほどその人がやりたい音楽と離れていくと聞いた。じゃあ、なんのためにやっているんだろうと思った。食べていきたいんなら、普通の仕事をして行ったほうがいい。

発する

ともかく、ラップとビートをつくって、表現をすることがはじまった。それまでも絵を描いていたが、直接自分の声を聴いてもらう。なにかしら反応がある。だから、人前に立つ。以前の私には考えられないことだった。最初は恥ずかしくてたまらなかったが、次第にやみつきになっていった。

見知らぬ人でも自分のラップを聴いてくれる。あがってくれる。関係がなくても、その瞬間、つながることができる。すごいことだ。出会うこと自体、奇跡に近いのに。自分の発する周波数に群がる。

ラップを始めてから、たくさんの仲間ができた。商売もそうだった。自分の意志を以って、自主的に動くと、多くの人と出会う。私の人生には登場人物がものすごく多い。良しにつけ悪しきにつけ、出会いによって変化し、成長していく。それは、これからも変わらない。神奈川に行けば、さらに良き出会いに恵まれるだろう。

ただ、人と深く付き合うのは苦手だった。一線を踏み越えられると嫌な感じになる。距離感が大切だった。私も距離の保ち方は、学ぶ必要がある。私自身のキャパが広くはないため、ストレスを抱えてしまう前に、離れること。執着を手放す。独りを恐れないこと。

私の人生のテーマは、「つくる」と「つながる」を絞っている。Pi;zや、レインボーや、丹後山アパートメント。いままで世話になった場への恩返しがしたくて、場をつくった。場を求める人は、たくさんいた。津山で私と同様に、輪に入れず、疎外感を感じている人が多いことを知った。

珈琲もスパイスカレーもスイーツも、表現だと思うようになった。耳に入るものが、口から体内に入って作用を及ぼす。すごいことだ。

ラップとビートにはリズムがある。サンプリングしていてわかるが、リズムも珈琲とおなじく、体に取り込まれていく。ふだん何気なく音楽を耳にしているが、実は食べものと同じくらい影響が強い。いい音が流れる喫茶店では、流れる時間が美しい。

表現することで人とつながっていく。だれかを喜ばす。社会の役に立つ。いい人生だ。

表現しても、届かなければ意味がない。これからは、たくさんの人にリーチする。ちがう街の人も。海を越えても。次代を越えても。