湘南移住記 第五十六話 「左官」

コロンビア8でグッドな衝撃を受けて、北浜へ出る。コーヒーピープルのノセ君に教えてもらった、〈エンバンクメントコーヒー〉に寄って、珈琲をテイクアウトをした。

豆は、ブラジルのハニープロセスを選んだ。もともとコスタリカで発明されたハニープロセス(珈琲の皮を残して発酵させる精選方法)だが、世界的に流行しているようだ。東京・神田の〈Glitch Coffee〉の川上さんに教えてもらったが、ブラジルも従来のナッツ感のフレーバーだけではなく、香りを重視した珈琲豆作りが行われているらしい。

テイクアウトしたブラジルもそうだった。浅煎りで、ボディはナッツ感の重心を残しつつ、軽やかさと華やかさがある。アプリコットなどのストーンフルーツ系のフレグランスだが、そこまで香りは強くない。これで香りが強かったらブラジルとはまるっきり別物になるのだが、そこは時代の流れでもあるのだろうか。津山でブラジルと言うと、中〜中深が多い。こういった新しい兆候をキャッチしてhatesでも取り入れたいところだった。

この珈琲を飲んで、女将はもう一度、神戸の〈太山時珈琲〉が飲みたいと言った。いろいろロースターを巡って、1番印象に残ったロースターだ。津山を出る前に、勉強のため、もう一度行っておこうか。

女将の提案で、難波橋前にある〈Moto Coffee〉に行くことにした。ここは数年前、カフェの勉強に来たものの、満席で入れなかった人気カフェだ。

この日も満席だった。待つことにした。入り口で受付をして、テラス席を指定する。このカフェは川が臨んだテラス席が有名だ。

入口前で待っている間、大阪のお洒落カップルが何組かいる。女将は突然、「あー、左官の仕事してえなあ!」と大声で話し出した。女将の性癖で、ほかのカップルの記憶に留まりたい症候群というのがある。近頃では、カップルを横に不定職者リミックスを大声で歌ったりしたらしい。

「もうすぐ3月 不定職者が確定申告 ハス!ハスラー!ニーテニーター!糸切れた凧!フーテフリーター!」

と見知らぬ女性が歌いながら近づいてきたら、大概の人はおののくだろう。

順番がきた。女将の左官トークを聞きながら、テラス席に入る。私はカフェオレ、チーズケーキを頼んだ。チーズケーキは独特のやわらかさが絶品だった。曇天の大阪、冷たいカフェオレを飲む。女将は、まだ左官の話をしていた。