湘南移住記 第三十七話 「視察①」

 時間は遡って、4月後半、三浦への視察について書きます。

不思議なほど

白いIKEAの時計が夜の8時を指した。まだコロナ渦がはじまってない頃、神戸で買った時計だった。バックも、文字盤も白いが針は水色の、いかにもイケアです、といった時計。いまでは表面のガラスにヒビがいってしまったが、かまわず使い続けている。

深夜バスの出発は夜10時だった。岡山駅西口のクラウンプラザホテル前集合。女将が車で送ってれる。おにぎりと弁当とお茶を女将は用意してくれていた。1時間半かかる行程を、出発する。

国道53号線。この道を何回通ったろう。あまりこの道が好きではない。電車で向かうにしても、見慣れた山しかでてこないし、津山線の車内は空気が殺伐としていて、居心地はよくない。牢獄に閉じ込められたような感覚になる。

所要時間の一時間半を、ほぼ話して過ごした。2人でいる時、あまり黙ることはない。どれくらいの言葉が、2人の間で交わされたのだろうか。犬になりきった同僚の男性に、早朝の公園を散歩させられた知り合いの話を聞いた。作り話のようなノンフィクションだった。

集合場所についた。車から降りるとき、気をつけてね、と女将は言ってくれた。何回も何回も別れそうになったのに、不思議なほどいつもいて、心配もしてくれる。一抹の寂しさを背に、集合場所へ向かった。送ってくれてありがとう。私も、女将の帰り道が心配になった。