湘南移住記 第十九話 「うなぎ」

 うなぎの夢を見た。私は鰻屋にいた。海が見える鰻屋だったと思う。鰻の蒲焼を売っている。1パック2000円。値段が高くて躊躇していると、店の人が見かねて1パック600円の鰻の寿司を出してくれた。これなら買えそうだ、というところで目が覚めた。

起き抜けにGoogleで調べてみると、鰻の夢は努力が叶う、ということの表象らしい。目の前に報いが来ているのに金で悩むのはよくはない。物件に関しても、初期費用で決めないことにした。お金は作ればいいし、感覚に従わずに決めてしまうと、安物買いの銭失いになってしまう。いいものと感じたものにはお金を問わない。と決めた。600円の鰻の寿司より、蒲焼を買うのだ。

やわらかいコミュニケーション

先週の話だが、田町のローソンに髭剃りを買いに行くと、portで結婚式を挙げた安藤さん夫婦と出くわした。結婚式では香草工房の内藤さんや水路珈琲のシロくんもハーブティーやコーヒーを出していて、私も手伝わさせてもらった。

安藤さんはhatisにもきてくださっていた。店を休業し、instaの更新も止めているため、私の現状を知らなかった。その経緯はなぜか街にも広がっていたが、その輪に入っていない人には届いてないみたいだ。

津山では話が紙屑を扇風機で散らすように広まってしまう。この性質を利用して、偽の噂を広めようとしたことがある。hatisオープン当時、入院して右上を手術したことがあった。しばらく包帯を巻きながら生活していたが、「右腕の指からトコロテンが出る手術をした」ということにしたかった。この人は噂をギャンギャン広めるだろうなという人に話したが結局広まらなかった。津山の人は他人の恋や不幸にはすごく食いつくのにこういった種類の話はしない。とても残念だった思い出がある。

とにかく、安藤さん夫婦と偶然会ったのだが、直接現状報告することができた。ほんでまた会うやろと思って別れたが、安藤さんが最後に「お元気で」と言ってきてくれた。その時ハッと気づいたがもしかしてこのお二人にはしばらく会えないかもしれないのだ。私は長話をしてしまうため、気を遣って話を切り上げたのだが、なんか想いが足りなかったのかもしれないなあ、と後悔した。申し訳ないことをした。安藤さん、ごめんなさい。

今日はインセクトでひさしぶりに吉田省吾と内藤に会った。吉田は岡山のペッパーランドという老舗のライブハウスで詩の朗読会をしてたり、内藤さんは哲学家の森内さんとラカンの読書会をしているらしい。レジュメを見せてもらったが、言葉はネットワークという考えが面白かった。

言葉ってとても大切。言葉にしてない感情や、いままでの経験に新たな言葉で描き直すと、ガラッと変わることがある。自分の未知の領域に言葉を与える。頭の捻り方を変えれば視野も広げやすい。

吉田は三浦市にも行ったことがあるそうだ。キャベツ畑が多くて、キャベツひとつ一つが大きいとのことだった。キャベツの栽培に適した気候なのだろうか。

三浦市に住むとしたら、三浦半島住まいになるので、主婦の友社から出ている半島住まい全集ていう本買やええがと言っていた。

この3ヶ月間、家と仕事場の往復、帰っても物件ばかり見て、翻るとお金にまつわる固いコミュニケーションばかりしてきた。portで働いてる時はアートと丹後山アパートに出入りし、hatisではそういう固い日常から離れに来た人と話した。固いコミュニケーションばかりだと疲れてしまう。

インセクトの本棚を見ると内藤さんが「今の時代にどう適応してお金を稼ぐかの本が多い」とおっしゃってた。それがいい悪いではなく、インセクトはビジネスの人の場だ。自分がやりたいことは、うなぎのように滑らかでやわらかいコミュニケーションなのだろう。ひさしぶりに内藤さんと吉田と話してわかった。MacBookでノマドワークをしている横で、吉田に湘南の路上に住みゃあええがと真顔で話されたとき、そう思った。鯊は飛んでも一代、鰻はのめっても一代。うなぎはどんな夢を見るのだろうか。