湘南移住記 第七話 「順番」

「にいちゃん、いいか。何事にも順番がある。歴史をふりかえってみても、順番を間違えたから戦争が起こる。それをよく考えなさい。」

あの人は実在する人なのだろうか?このメッセージを届けるために遣わされたVRの天使なのではないか。そういった存在は老年期に差し掛かった人間の姿で現れる。

大学生の時、浅野という剣道部の男に誘われて看板持ちのバイトをしていた。スーツを着てマンションの宣伝の看板を持ちパイプ椅子に座って8時間座るだけで日給8000円もらえる仕事。クラブで遊んでいた時分、お金が必要だったのでよく入らせてもらっていた。しかし、何もすることがない。確かスマホがまだ普及していない時代。ひたすらボーっとするか、考え事に耽っていた。JR三宮から海側、南に歩いて20分ほど、大きな公園。関電の神戸支社があるへん。阪急六甲駅までのバス道に住んでいた当時は、比較的行きやすい現場だった。温かったので、季節は春だったように思う。潮風が薫る春の神戸が好きだった。いつもにように用意されたパイプ椅子に座っていると、スーツのおじいちゃんが話しかけてきた。名古屋で社長をやっているらしい。なんの会社かはわからなかった。そして、こんなことを教えてくれた。

「にいちゃん、いいか。何事にも順番がある。歴史をふりかえってみても、順番を間違えたから戦争が起こる。それをよく考えなさい。」

今朝、久しぶりに焼いたエルサルバドルとメキシコをミックスした珈琲豆を家用に使っているハリオV-60で挿れて、女将と飲んでいたらふと思い出した。朝ごはんは玄米と豆腐と小松菜のコンソメスープだった。

なぜ思い出したんだろう? 先月から準備を急に始め、まずは資金づくりをし始める。少ない求人から短期のものを見つけて連絡。要件の問題でなかなか決まらなかった。なんとか先方が融通を利かせてくれて一ヶ月間働けた。感情の整理から、トラブルもあり、ひとつひとつ目の前の階段を登って行く感じ。12月は心の面で大変な年だった。店をやる1ヵ月も濃いが、面舵を一杯に取ったので、大変だった。避けられない、急な変化。

それでも年が明け、少し資金が貯まり、感情がある程度落ち着き、移住もなんとか目処がつきそうになってきた。銀行から借金することも考えたが、余裕を持って生活を始めたい。アテも何もない見知らぬ土地で、女将と猫で人生を再度立ち上げる。不動産会社に連絡して移住が具体化してきた。たった1ヵ月でもさまざまな出会いがあった。職場でかけられた温かい言葉。優しさ。経営の先輩からの激励やアドバイス。トラブルがあった際も、助けてくれた仲間。私が人生を終える時に、出会いに恵まれていたと自慢できる。感謝が湧き出た年の瀬だった。亡くなったおばあちゃんが助けてくれていて、鎌田屋という会社を起こし軌道にのせるまでのヴィジョンに繋がっている。

中学の時、バスケを始める際、なぜかNBAプレイヤーの本を買って参考にしようとした。ゾーンに入った時の視野の使い方とか、上級から見た方が飛び級できるっしょという考えで、もちろん身につかない。まずは基本のルールから始まり、パスやドリブル、練習方法からきっちり覚えたほういい。学業にしても仕事もそう。建設的な思考に欠けていた。hatisも、PORTでの勤務がなかったらドリップの基礎もなかったし、広がった人間関係も視野もなかった。遠回りだと思える道が、必要な工程だったりする。

今年は水瓶座に木星と土星のコンジャクンションなので、試練をひとつひとつクリアーしている感触がある。その先に自信や発展がある。35歳になる今年は、人生で1番成長する年にするつもりだ。今のところ、順序よくいけてると思う。タイミングも絶妙だ。道が拓けてる。大事なのは、焦らない事。一日一日を大事にする。

土曜日の夜、香草工房の内藤さんが来てくれて、鬼滅の刃について談義していたら、なぜかTojin battle royale の話になり、「Golden 8」という金八先生についての曲を聴くことになった。この曲のフックが、Dev large とNippsの「鋼鉄のBlack」のオマージュだよな、と思い出してこちらも久しぶりに聴いてみた。それでふとDev largeで検索すると、最期のソロアルバム の本人による解説があった。その中に、

未来は予想がつかないとかどうなるか分からないと言うよね。それもあるんだけど、未来は自分たちで作り出すものでもあり、良い行いだったり良い想念を持ち良い気持ちで日々生きてると、良いものが周りに寄ってきて良い思考がどんどん広がって、良い方向に向かう道が出来るはずなんだ。

という一文が出てきた。去年末、このWebマガジンの再スタートで書いたことをD.Lは生前考えていた。嬉しかった。大切なのは、ヴィジョンを語ってそこに邁進して生きていくこと。言葉は偉大で、なぜなら人生は尊いから。時間に限りがある。100年後やそれ以降のことを考え、いま私たちに何ができるか。私たちの世代の課題は、機械化を避けること。人間らしく、自分らしく生きていく道を選択すること。お互いの違いを認め合うこと。長い戦争の歴史に終止符を打つこと。なくなったつながりを取り戻すこと。

誰も読まんやろ、と自分の頭の整理のために書き始めたこの記事だけど、誰かしら読んでくれている。私のこれから10年、20年の始まりの宣言であり、指標です。順番というなら、まず自分の想いを決めることが先決でした。残りの人生で何が有用なのか、お互い考えていきましょう。また、教えてください。手を取って一つの事を成せれば最高です。よりよい未来を開くために、よろしくお願いします。