
きしわさんのハンバーガー 180円
津山市川崎の、メインの道路から一本入った筋にきしわという昔ながらのパン屋さんがあります。前回もレッドチキンサンドとベーグルの記事を書きました。今時の実力とおしゃれさを兼ね備えたベーカリーではなく、厨房からおじいちゃんがパンの補助に出入りするパン屋です。目新しさはないし、ハッとするようなおいしさもない。酵母や小麦にこだわってる様子もなく、それを全面に押しだしてるわけでもない。だけど、精神をじんわりあたためてくるような味があります。これはなんだろう。
一流の小説家の文体は押し付けがまさがなく、そこからくる気品があります。余白があるからこそ入り込む余地がたくさんある。何十年も続けてきた理由があるように感じます。
岡山県津山市というところは、チェーン店が多く、マクドナルドや丸亀製麺に週末行列ができるという都会ではまず見受けられない光景があります。都会の人からすると、魅力のない地方都市の筆頭のように思われますが、さいきん台湾のメディアにも取り上げられたり、にわかに活気だってきました。
津山に帰って1年。暮らした感想としては、津山に住んでいる市民が津山の魅力に気づいてないこと。モデルになれる容姿なのに、あたしブスだから…とナゾにしょげているようなもの。昔ながらの街並があり、肉もおいしい。そして魅力は、昔ながらの津山を支えてきたお店にある、と感じます。コンビニにいけば、安くてそこそこ食べれるパンがある。でも、人生の経験としたときにどうでしょう。あなたが一生コンビニのパンを食べたか、きしわのパンを食べ続けるかで、豊かさは変わってくるでしょう。どこにいても食べれる同じようなものを食べるのか。人の血が通った、想いがあるものを食べるのか。ローカルにいるならばそこがキーです。そこでないと手に入られないもの。食べられないもの。見れない風景。なんでもいいです。人の暖かさかもしれません。
小学生のころ、イズミに入っていたマクドナルドのチーズバーガーの味は思い出せません。きしわのこのバーガーの味は10年後でも思い出せる気がする。180円でも、記憶の積み重ねができる。
当Zineでは、そういったほんとうの豊かさを伝えます。ここに足を運んでくださるみなさんが、なにか感じとってくれれば嬉しい。