参遍来〜楽観堂@三原市

尾道から三原のカレー縁

尾道市に旅行に行きました。「紙片」という古本屋さんを訪ねたかったのですが、行ってみるとご主人が旅に出たとのことで、タイミング悪く入れませんでした。

尾道に来てカレーが食べたくなり、夜歩いていると、海岸沿い近くになにやら怪しいオーラをまとった店を発見。看板にグリーンカレーと書かれています。見た瞬間に迷わず店に入っていました。直前までお好み焼き屋とか迷っていましたが。なぜか入ってしまった。中はカウンターで、いい感じのメガネのご主人と地元のお客らしい2人。席の後ろには本が山積みになっている。めっちゃええ雰囲気やんけ。席につき、キーマカレーを頼みます。最強のキーマを作りたいからね。

たべる。スパイシー。しかしなぜか食べていると突然不安感に襲われる。外からの者がこの店にいていいんだろうかと考え過ぎてしまう。地元を離れ、謎の焦燥感が到来してしまった。早く食べる。辛い。しかしなんとか食べきった。

焦って出ようとすると、ご主人がちょっと待って、と言って一口のチャイを出してくれた。飲むと、辛かった口が和らぐ。焦った自分を見かねてくれたのか、底の深い暖かさを感じた。ありがたい。そういえば食べてる間も、地元のおじいさんを見ながらちらちらこちらを気にしていてくれた気がする。これが本当の気遣いか。

これをきっかけに店の輪に入っていけて、中にいた三人で話ができた。津山と尾道は岡山県と広島県の違いがあるが、それ以前は備前備中備後と文化圏が一緒だったぽく、イントネーションや話のリズムが津山のおっさんのそれとなにも変わらない。広島市まで行くと、安芸の国になるからまた変わるらしい。というような話もした。しまいには美作の酒、御前酒まで出てきて、つい話し込んでしまった。尾道のおじいさんは、赤ワインをグラスに傾けていた。尾道は長らく住んだ神戸と一緒で、外の人を受け入れてくれる気風がある。オープンで話がしやすい。

いい感じのご主人にお礼を言い、いろいろ教えてもらった。で、是非訪ねてくれと三原市にある「楽観堂」を紹介して頂いた。

ミスターおくらのカレー屋

フライヤーを頼りに尾道から歩きで行く。三原市は造船所らしい工場が多く、尾道とはまた違った雰囲気だった。

尾道から小一時間歩いただろうか。バスで来ればよかったと若干後悔しながら、なんとかたどり着く。

古民家を改装したような店、いや店というよりこぎれいな誰かんちといった感じだった。開店前だったので、1人しかいない。とりあえず海側の席に行く。小さな島がぽかりと浮かんでいて、大仰でないところがよかった。こちらも都会の店にはない、無駄な見栄を全く排除した心地よさがあった。

他の店で楽観堂のことを聞いたら、どうもミスターおくらさんという方がやっているとの情報を得た。接客してくれたのは女性だったので、たぶん奥さんだろう。奥さんに聞いたらそうです、ミスターおくらですと教えてくれた。

メニューはあいがけを頼んだ。ココナッツカレーは辛くしますかと聞かれたが、甘いままで、と答える。しかし辛くても良かったなあ。優しい味でした。味というのは人柄が出る。

食べ終わると、奥さんがミスターおくらさんが出された本を読ませてくれた。セットのチャイを持って、庭へ。こじんまりとした海を見ながら読みふける。ミスターおくらさんの半生が書かれていて、ミャンマーにいったり、とても面白い道のりだ。しかも、失敗をあますことなく書いてある。書きながら向き合っている感じがした。しかし最初から一貫していたのは、「自分が行きたいと思った道」を進み続けていたこと。

自らを振り返ってみると、就職で妥協した選択をしたり、したかった選択を避け、今やるべきではないとやりたいことを押し殺してきた。そのしっぺ返しは大いにあった。これからどうあるべきか、と思いを馳せながら本を閉じた。庭のベンチからはくじらみたいな島が浮かんでいる。

店内に戻り、会計をすると奥さんとミスターおくらさんがいた。今、感じたことを話すと、聴いてくれた。訝しまれたのようにも見えた。物語を美化しようとしすぎたのだろうか。でもこちらの質問にもひとつひとつ、丁寧に答えて頂いた。

店を去るとき、ミスターおくらさんは校舎の廊下みたいな入り口で手をついてありがとうございますと見送ってくれた。こんな人を想える人間になろうと、帰りがけに考えた。